ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:大御所の居室ー

想「失礼します。逢岡です」

大御所「逢岡?何用か?」

想「現在拘束中の容疑者について公開での処刑をお命じになられたと酉居さんより伺いました」

大御所「その通りだ。お主も酉居に協力して早急に実施せよ」

想「このたびはその件についてご意見申し上げたくて参りました。単刀直入に申し上げて、このたびの命には承服できかねます」

大御所「ふむ。私に意見するというのか。逢岡、お前は私に秘密を握られているのを忘れておるのではないか?」

想「いいえ、忘れてはいません。ですが、もう吹っ切れました。これからは正しいと思うことをします」

大御所「共に二度と微笑みかけられることは無いぞ?」

想「承知の上です。私の身などは滅びるなら滅びれば良い。あの人が学園をよい方向へと導くためなら何も惜しくは無い。私が憎まれること、見捨てられること、そんなことは些細な問題です。あの人の枷となるのなら私は喜んで姿を消します。……それが私なりの償い」

大御所「ふふ、よい覚悟だな。いいだろう、理由くらいは聞いてやろう」

想「はい。まず処分を受ける者たちの中に遠山朱金、越後屋山吹といった学園の名士が含まれております。かの者たちを慕う生徒たちは多い。彼らを公の場所で処罰して辱めることは、徒に生徒たちの恨みを買い、一層執行部への反発を招きます」

大御所「其処に狙いがあると酉居にも伝えたはずだが?この機会に反抗分子を全て炙りだして一掃するのだ」

想「十万の生徒の中から執行部に不満を持つ生徒全てを除くなど不可能です。潜行した反抗分子がゲリラ化するのが目に見えています。我々も彼らも同じ生徒です。彼らを反抗分子などと呼ぶのは一方的な立場からの味方に過ぎません。ただでさえ生徒の度重なる騒動によって困憊しきっております。今、我々に求められているのは処罰ではなく救済です」

大御所「ならば逢岡。今、執行部は何をすべきだというのだ?」

想「私はこのタイミングで公開処刑などで対立を深めるのは愚の骨頂だと考えます。今は話し合いの場を設け互いに歩み寄るべきです。具体的には臨時の全校集会を開くことを進言します」

大御所「ふふふ。さすが微笑みの名奉行といったところか。お優しいことだ。だが断る」

想「…………」

簾の向こうに厳しい視線を向ける想い。

大御所「衆愚と対話を持つなど時間の無駄だ。圧倒的な力を見せつけることで決定的な恐怖を植え付け、徹底的に支配するのだ」

想「そんなものが学園の正しい姿とは思えません!」

大御所「正しい姿などどうでも良い。ここは私の学園だ」

想「なっ……」

大御所「くくくっ、お前も酉居も私にとってはひとつの駒にすぎぬのだ。逆らうことは許さん。」

想「……いったい何をしようとしているのです?あなたは、何ものだっ!?」

想は腰の刀の柄に手をかけた。そして……想はそのまま簾をまくり上げた。

飛び込んだ想は驚きの表情で動きを止めた。

大御所「ふはははは!」

簾の向こうには誰の姿もなかった。ただスピーカーからは大御所の嘲笑が響いた。

想「そんな……」

大御所「残念だったな、私はここにはおらぬぞ。お前の考えるようなことはすべてお見通しだ。ははははっ!その絶望の表情、こちらからはよおく見えておるぞ」

想「一体、どこから見ている?」

きょろきょろとカメラを探す想。
不意に背後に気配を感じた想は刀の柄を掴んで向き直る。

「…………」

想「あ、あなたは……きゃあっ!!」
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