ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【10】

ー大江戸学園:配給所前ー

あの遠山朱金が決起する。

その噂は、執行部に不満を感じていた生徒たちの間を光の速さで駆け巡った。

朱金「真留……どうしてもそこはどけねぇってのか」

真留「遠山様こそ、冷静になって考え直してください。」

大通りの配給所の前で朱金と真留がにらみ合う。

地面には配給所の役人たちが突っ伏している。朱金の逆鱗に触れ、一太刀の下切り捨てられた生徒たちだ。

朱金の後ろには、朱金を旗印とし、執行部の暴政に反旗を翻した生徒たちが並んでいる。

その中には、先日小鳥遊堂に相談に訪れた生徒の姿もあった。

朱金「……」

真留「配給所の打ち壊しなんて……本気ですか!」

一方の、丸の後ろに居るのは幕府の役人生徒と、元北町奉行所で朱金の下についていた生徒たちだった。

朱金「オレが冗談でこんな事をするとでも思ってんのか?」

真留「……思ってません。だから、だからこそ!どうしてこんなっ!」

朱金「言っとくけどな真留、先に手を出しやがったのはそいつらだぜ。こっちはやられた分やり返させてもらっただけだ」

と、配給所の生徒たちを睨みつける。

朱金の言葉通り、先に手をあげたのは配給所の役人たちの方だ。

それを引き金とし、朱金も配給所打ち壊しという大胆な行動に出たのだ。

真留「ですがそれは、遠山様たちが幕府の決めたことに逆らうから悪いんです!」

朱金「幕府に逆らうだって?オレたちは、少しでいいから配給を増やしてくれって頼みに来ただけだ。それを話も聞かずに力ずくで追い払おうとしたのはそっちじゃねぇか」

真留「配給の量は幕府によってきちんと管理されています。それをわがままで増やせなど、認められるはずありません!」

朱金「きちんと、だと?笑わせんな!こいつらは、明日食う米もねぇってオレに泣きついてきやがったんだ。それでもきちんと配給してるって言い張る気か!」

真留「で、ですが!幕府の決めたルールです!皆がルールを守らないと治安が……」

朱金「治安?はんっ!おい真留、そこに倒れてる連中、なにをしやがったか知ってるか?」

真留「……」

朱金は、地面に倒れている生徒を凍えるような目で一瞥する。

朱金「そいつらはな!配給の量を増やしてくれって頼みこむ乙っ子の生徒を、問答無用で蹴っ飛ばしてやがったんだ!それが幕府のすることか?どうなんだ真留!ああん!?」

真留「それは……」

朱金「とにかく……何をいわれようがオレの考えはかわらねぇ。例え真留であろうと、邪魔するってんならたたっ斬る。そこをどけ!真留!」

真留「……それはこっちの台詞です。配給所の打ち壊しなんて、見逃せるはずがありません。例え遠山様であっても、必ず捕まえます!覚悟してください!」

一触即発。二人ともが今にも飛びかかろうとしたまさにその瞬間。

男子生徒B「ぐわああぁぁぁぁ!」

打ち壊しに集まっていた生徒の一角から悲鳴があがった。

朱金「どうした!」

男子生徒A「き、金さん!てぇへんだ!酉居のやろうが舞台を引き連れて突っこんで来やがった!」

朱金「ちっ!またあいつか!」

男子生徒A「こっちだ!」

朱金が猛然と駆けだす。

打ち壊しに集まったと言っても所詮は素人の集団。

突然現れた酉居の精鋭部隊にはまったく歯が立たず、たやすく蹂躙されていく。

朱金「テメーらの相手はこのオレだ!どっからでもかかってきやがれ!」

酉居の精鋭部隊を朱金が片っ端から殴り倒していく。

だけどそれも焼け石に水、すでに崩れた戦況を覆すほどではなかった。

しかもそれに追い打ちをかけるように、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた酉居が現れた。
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