ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】
ー大江戸学園:空き家ー
この日、また徳河さんから連絡があった。
いつものように、同じ場所へと呼び出される。
詠美が言いたいことをいい、おれもそれに対して思うように返答する。
そんななんの進展もない会話ばかりの繰り返しでも、やっぱりおれは足を運んでしまう。
どうしてかは、あまり考えないようにして。
詠美「どうして遠山さんはわかってくれないの?どうして吉音さんにはなにもしなくても人が集まるの?逢岡さんはこちらについてくれているわ。私は間違ってなんかいないのに……」
悠「……」
ここで会うたびに、詠美の表情に苦悩の色が濃くなっていく。
まったく無防備な姿。おれが詠美を拐かせば大変なことになるのに、それに対しての警戒がない。
おれひとりでは到底敵わなくても、他人を集めることだってできるのに。
詠美「今は整理して立て直す時期。小さな感情なんて捨てなければならないのに、どうして町奉行の地位にある人に、それがわからないの?」
まぁそんなことする気は最初から無いんだけど。
悠「徹底して規律を守らせることは正しいと思う。そういう完璧に統制された秩序を築くこと自体は、誰にも責められない。でもそれに対抗し、自由な競争、弱肉強食を地で行こうとすることだってひとつの正義なんじゃないか。」
詠美「どうして?どれだけ多くの生徒が借金に喘いでいたか、あなたも知っているでしょう?」
悠「学園には混沌の中で腕を磨き、世に出ようという野望を持ったやつだって沢山来てる。そいういやつはどうしたって管理し尽くされた学園を良しとしないよ」
もっと乱暴な言い方をすれば、敗れて大変な目を見るという覚悟がなければ、学園でやっていく資格は無い。
そこからの巻き返しに協力する事は出来ても、無条件での救済には賛成できない。
詠美「ではあなたは五人組や瑞野校長、由比雪那さんらも正義だったというの?」
悠「利益を求めるのも、体制の革命を求めることにも、善悪は無い。おれたちはその手段が許せなかったから、力を合わせて打ち倒したってだけだ」
詠美「……つまり、目的が正しくても、やり方に納得できなければ、敵対するのもしかたがないといいたいのね。」
悠「嘘をいっても仕方がない。目的が正しかったら人を殺してもいいってのは間違ってるのと同じだ。」
近いうちに、朱金と執行部の対立はもっと明確なものになってくる。
詠美「生まれようとしている秩序を乱されるわけにはいかない。もし強く反抗されたら……私はきっとその鎮圧に向かうわ」
そうなったらおれは朱金の方に味方する事になる、と思う。
これまで曲がりなりにも協力し合い、このところはせめて不干渉と身を振ってきたけれど。
ついに敵と味方の関係になろうとしているのか……。
悠「…………」
詠美「もう何度も繰り返したやりとりだけど、正しいかどうかと、感情は別のところにあるのよね?」
悠「少なくとも、おれはそう思ってる」
詠美「だったら、組織同士の関係と個人間の感情も、また違っていてもおかしくないはず……」
個人間の、感情。
悠「……」
詠美「考え方の違いで敵対する事になっても、私たちまでが険悪な関係になる必要なんてないわ。そうでしょう?」
悠「……そうだな。おれも、そうありたい」
もうおれが徳河さんに頼られているっていうのは、うぬぼれとは思えない。
詠美の目指す道は、とにかく他人に強い態度を見せ続ける必要がある。
抜きどころのないその反動を、おれにぶつけてきてくれているんだ。
でもこのままじゃあ、頑なさをエスカートさせるばかりで、いつか自滅してしまう。
この女の子を見殺しにはしたくない。せめて倒れる前には、また受け止められるように。
そんな距離だけは保ち続けたい。
この日、また徳河さんから連絡があった。
いつものように、同じ場所へと呼び出される。
詠美が言いたいことをいい、おれもそれに対して思うように返答する。
そんななんの進展もない会話ばかりの繰り返しでも、やっぱりおれは足を運んでしまう。
どうしてかは、あまり考えないようにして。
詠美「どうして遠山さんはわかってくれないの?どうして吉音さんにはなにもしなくても人が集まるの?逢岡さんはこちらについてくれているわ。私は間違ってなんかいないのに……」
悠「……」
ここで会うたびに、詠美の表情に苦悩の色が濃くなっていく。
まったく無防備な姿。おれが詠美を拐かせば大変なことになるのに、それに対しての警戒がない。
おれひとりでは到底敵わなくても、他人を集めることだってできるのに。
詠美「今は整理して立て直す時期。小さな感情なんて捨てなければならないのに、どうして町奉行の地位にある人に、それがわからないの?」
まぁそんなことする気は最初から無いんだけど。
悠「徹底して規律を守らせることは正しいと思う。そういう完璧に統制された秩序を築くこと自体は、誰にも責められない。でもそれに対抗し、自由な競争、弱肉強食を地で行こうとすることだってひとつの正義なんじゃないか。」
詠美「どうして?どれだけ多くの生徒が借金に喘いでいたか、あなたも知っているでしょう?」
悠「学園には混沌の中で腕を磨き、世に出ようという野望を持ったやつだって沢山来てる。そいういやつはどうしたって管理し尽くされた学園を良しとしないよ」
もっと乱暴な言い方をすれば、敗れて大変な目を見るという覚悟がなければ、学園でやっていく資格は無い。
そこからの巻き返しに協力する事は出来ても、無条件での救済には賛成できない。
詠美「ではあなたは五人組や瑞野校長、由比雪那さんらも正義だったというの?」
悠「利益を求めるのも、体制の革命を求めることにも、善悪は無い。おれたちはその手段が許せなかったから、力を合わせて打ち倒したってだけだ」
詠美「……つまり、目的が正しくても、やり方に納得できなければ、敵対するのもしかたがないといいたいのね。」
悠「嘘をいっても仕方がない。目的が正しかったら人を殺してもいいってのは間違ってるのと同じだ。」
近いうちに、朱金と執行部の対立はもっと明確なものになってくる。
詠美「生まれようとしている秩序を乱されるわけにはいかない。もし強く反抗されたら……私はきっとその鎮圧に向かうわ」
そうなったらおれは朱金の方に味方する事になる、と思う。
これまで曲がりなりにも協力し合い、このところはせめて不干渉と身を振ってきたけれど。
ついに敵と味方の関係になろうとしているのか……。
悠「…………」
詠美「もう何度も繰り返したやりとりだけど、正しいかどうかと、感情は別のところにあるのよね?」
悠「少なくとも、おれはそう思ってる」
詠美「だったら、組織同士の関係と個人間の感情も、また違っていてもおかしくないはず……」
個人間の、感情。
悠「……」
詠美「考え方の違いで敵対する事になっても、私たちまでが険悪な関係になる必要なんてないわ。そうでしょう?」
悠「……そうだな。おれも、そうありたい」
もうおれが徳河さんに頼られているっていうのは、うぬぼれとは思えない。
詠美の目指す道は、とにかく他人に強い態度を見せ続ける必要がある。
抜きどころのないその反動を、おれにぶつけてきてくれているんだ。
でもこのままじゃあ、頑なさをエスカートさせるばかりで、いつか自滅してしまう。
この女の子を見殺しにはしたくない。せめて倒れる前には、また受け止められるように。
そんな距離だけは保ち続けたい。