ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】
ー大江戸学園:執行部室前ー
執行部室を下がり、自らの執務室へと戻る想の心中は、行く末の不安と自らの無力さへの嘆きに満たされていた。
ヒュッ!
想の足元に風車が突き立った。
すぐに周りを見回す想だが、すでに誰の姿もなかった。
想はしゃがんで風車を手にとった。
想「薔薇の意匠……」
想いは薔薇をかたどったこの風車に見覚えがあった。
そして見れば風車には紙片がくくりつけてあった。
ー大江戸学園:堀沿いの道ー
夜。寂しい堀沿いの道を行くのは、火盗改長官長谷河平良である。
平良「ふむ……想定よりも多いな」
平良は独り言しながら歩いているように見えるが、彼女は影に潜む黒装束の者に言葉を投げかけているのだ。
つまり彼女は秘かに放った密偵よりの報告を受けているところなのである。
密偵「はい。これでもまだ氷山の一角かと。今後の繋がりを辿って行きますればどれほどの数になるか分かりませぬ」
平良「危ういな。これほどまでに執行部に不満を持っている者が多いとは。大江戸城は砂上の楼閣か」
密偵「今後、密偵の人数を増やして調査を続けさせていただきます」
平良「うむ、よろしく頼む」
密偵「では」
密偵は書簡を平良に手渡すと静かに姿を消した。
密偵の気配が消えると平良はため息をついた。
平良「これではまるで秘密警察だな。ふふっ……以前、小鳥遊に言われたな…………。誰だ?」
何ものかの気配を感じた平良は暗闇の中に声を投げた。
「オレだよ」
平良「……朱金?」
朱金「おう、久しぶりだな、平良」
平良「お前は謹慎中のはずだが?」
朱金「固ぇこというんじゃねぇよ。散歩するくらいかまわんだろう」
平良「用件を聞こうか」
朱金「ふん、つくづくつまんねぇヤツになっちまったな、お前は」
平良「今すぐ逮捕拘束しても構わないんだぞ?」
朱金「ふん、やれるもんならな」
平良「……………」
朱金「待て。俺だって決着をつけたいのは山々だが、今日は話しあいに来たんだ。単刀直入にいうぜ。平良、執行部から離れてこっちにつけ」
平良「こっち?」
朱金「ああ。本当に生徒たちの味方になってやるんだ」
平良「執行部は生徒たちの味方ではないと?」
朱金「へん、お前だって分かっているだろうが?さっきのやりとり聞いてたぜ」
平良「盗み聞きか。いい趣味だな」
朱金「聞こうと思って聞いたんじゃねぇや。勝手に聞こえてきたんだ。そんなことよりとっとと答えを聞かせろ」
平良「相変わらず自分勝手なヤツだ」
朱金「…………」
朱金は真剣な目をしていた。
平良「断る」
朱金「……そうか」
平良「私は火盗改長官、長谷河平良だ。学園の治安を乱すものと組むわけにはいかない」
朱金「誰のための治安だよ!」
平良「それは私の決めることではない」
朱金「もし詠美や酉居が生徒を全員ふん縛れっていえば従うのか?」
平良「それが命令ならばな」
朱金「けっ!最っ低だな。お前、いつからそんなヤツになっちまったんだよ!」
平良「…………」
朱金「話しあう余地もないってか。僅かでも信じて会いに来た俺が馬鹿だったよ。お前はもうあの頃の平良とは別人なんだな!じゃあな。いずれ決着はつける」
朱金は一瞬悲しい目をして、平良に背中を向けた。平良もそれを追わなかった。
平良「朱金……」
平良は呟いたが、声は夜風に紛れてちりぢりになった。
執行部室を下がり、自らの執務室へと戻る想の心中は、行く末の不安と自らの無力さへの嘆きに満たされていた。
ヒュッ!
想の足元に風車が突き立った。
すぐに周りを見回す想だが、すでに誰の姿もなかった。
想はしゃがんで風車を手にとった。
想「薔薇の意匠……」
想いは薔薇をかたどったこの風車に見覚えがあった。
そして見れば風車には紙片がくくりつけてあった。
ー大江戸学園:堀沿いの道ー
夜。寂しい堀沿いの道を行くのは、火盗改長官長谷河平良である。
平良「ふむ……想定よりも多いな」
平良は独り言しながら歩いているように見えるが、彼女は影に潜む黒装束の者に言葉を投げかけているのだ。
つまり彼女は秘かに放った密偵よりの報告を受けているところなのである。
密偵「はい。これでもまだ氷山の一角かと。今後の繋がりを辿って行きますればどれほどの数になるか分かりませぬ」
平良「危ういな。これほどまでに執行部に不満を持っている者が多いとは。大江戸城は砂上の楼閣か」
密偵「今後、密偵の人数を増やして調査を続けさせていただきます」
平良「うむ、よろしく頼む」
密偵「では」
密偵は書簡を平良に手渡すと静かに姿を消した。
密偵の気配が消えると平良はため息をついた。
平良「これではまるで秘密警察だな。ふふっ……以前、小鳥遊に言われたな…………。誰だ?」
何ものかの気配を感じた平良は暗闇の中に声を投げた。
「オレだよ」
平良「……朱金?」
朱金「おう、久しぶりだな、平良」
平良「お前は謹慎中のはずだが?」
朱金「固ぇこというんじゃねぇよ。散歩するくらいかまわんだろう」
平良「用件を聞こうか」
朱金「ふん、つくづくつまんねぇヤツになっちまったな、お前は」
平良「今すぐ逮捕拘束しても構わないんだぞ?」
朱金「ふん、やれるもんならな」
平良「……………」
朱金「待て。俺だって決着をつけたいのは山々だが、今日は話しあいに来たんだ。単刀直入にいうぜ。平良、執行部から離れてこっちにつけ」
平良「こっち?」
朱金「ああ。本当に生徒たちの味方になってやるんだ」
平良「執行部は生徒たちの味方ではないと?」
朱金「へん、お前だって分かっているだろうが?さっきのやりとり聞いてたぜ」
平良「盗み聞きか。いい趣味だな」
朱金「聞こうと思って聞いたんじゃねぇや。勝手に聞こえてきたんだ。そんなことよりとっとと答えを聞かせろ」
平良「相変わらず自分勝手なヤツだ」
朱金「…………」
朱金は真剣な目をしていた。
平良「断る」
朱金「……そうか」
平良「私は火盗改長官、長谷河平良だ。学園の治安を乱すものと組むわけにはいかない」
朱金「誰のための治安だよ!」
平良「それは私の決めることではない」
朱金「もし詠美や酉居が生徒を全員ふん縛れっていえば従うのか?」
平良「それが命令ならばな」
朱金「けっ!最っ低だな。お前、いつからそんなヤツになっちまったんだよ!」
平良「…………」
朱金「話しあう余地もないってか。僅かでも信じて会いに来た俺が馬鹿だったよ。お前はもうあの頃の平良とは別人なんだな!じゃあな。いずれ決着はつける」
朱金は一瞬悲しい目をして、平良に背中を向けた。平良もそれを追わなかった。
平良「朱金……」
平良は呟いたが、声は夜風に紛れてちりぢりになった。