ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
翌朝、家を出て隣の家を覗きこむと、そこにはすでに誰も居なかった。
いつも活気のあったねずみやは、火が消えたような静けさで満たされている。宣言通り出ていったのだろう。
悠「……挨拶くらいしていけっての」
店に向かって呟くが、当然返ってくる声はない。
結花さんの包むような優しい声も、唯ちゃんの明るく元気な挨拶も、由真の強気で挑発的なお節介も、もう二度と聞こえてくることはない。
寂しさを紛らわせるために頭を数回振って、家の中へと踵を返す。
吉音「どしたの悠~、こんなに朝早くからぁ~」
寝起きの吉音が、眠たそうに眼を擦りながら声をかけてくる。
悠「……なんでもないよ」
吉音「そお……?」
悠「ああ。それより、朝ご飯にするか」
吉音「う~~……ご飯食べる~~」
今日もこうして、一日が始まった。
ー大江戸学園:かなうの養生所ー
かなう「ヤクロウ、ここ消毒してやってくれ」
ヤクロウ『メェェ』
ヤクロウの角から放たれた温かな色味のビームが傷を照らす。
ヤクロウのビームには殺菌と痛みの緩和の効果があるのだ。
かなう「どうだ。これで痛みはマシになったろう?」
乙級男子A「ホントだ!ありがとう。すごいね、このヤギ」
かなう「ああ。こいつぁ、私の剣魂でヤクロウってんだ」
ヤクロウ『メェェ』
誇らしげに鳴くヤクロウ。
ここ刀舟斎かなうの養生所には先の雪那の乱で傷ついた生徒たちが数多く収容されていた。
特に他の養生所では疎まれがちな、雪那側についていた乙級生徒を受け入れている。
文「きつくない?」
乙級男子A「うん、大丈夫」
ヤクロウが消毒した傷に包帯を巻いてやるのは五十嵐文だ。
文はしばらく前からかなうの養生所に身を寄せていた。
兄の行方探しが暗礁に乗り上げていた文をかなうが誘ったのだ。
身体を動かして働いていることで気を紛らわせることも出来るだろうと思い、手伝いを始めた文だったが少しずつ人の役に立つことの喜びを知りつつあった。
そんな文のわずかな表情の変化をかなうは嬉しく思っていた。文は本当は戦いに向いている娘ではないのだ。
かなう「よし、次はおまえさんだ」
隣の患者の治療に移るかなう。この少年も手足に火傷を負っていて痛々しい。
かなうは同じようにヤクロウのメディカルビームを使おうとした。
ヤクロウ『ンメェェ』
乙級男子B「剣魂……だ」
ヤクロウにのぞき込まれると少年は表情を暗くした。
かなう「ん?どした?」
文「ひょっとして剣魂が苦手……なの?」
乙級男子B「……うん」
文「ヤクロウは怖い剣魂じゃないよ?」
ヤクロウ『ンメェェ……』
乙級男子B「うん。分かってるんだけど……」
かなう「噛みゃしねぇから、ちっとの間だけ我慢しな」
ヤクロウ『メェェ……』
かなうはまだ怯えている少年の手を取ってヤクロウのビームをあてた。
ビームの効果で苦痛が緩和されたのか、表情が次第に和らいできた。
翌朝、家を出て隣の家を覗きこむと、そこにはすでに誰も居なかった。
いつも活気のあったねずみやは、火が消えたような静けさで満たされている。宣言通り出ていったのだろう。
悠「……挨拶くらいしていけっての」
店に向かって呟くが、当然返ってくる声はない。
結花さんの包むような優しい声も、唯ちゃんの明るく元気な挨拶も、由真の強気で挑発的なお節介も、もう二度と聞こえてくることはない。
寂しさを紛らわせるために頭を数回振って、家の中へと踵を返す。
吉音「どしたの悠~、こんなに朝早くからぁ~」
寝起きの吉音が、眠たそうに眼を擦りながら声をかけてくる。
悠「……なんでもないよ」
吉音「そお……?」
悠「ああ。それより、朝ご飯にするか」
吉音「う~~……ご飯食べる~~」
今日もこうして、一日が始まった。
ー大江戸学園:かなうの養生所ー
かなう「ヤクロウ、ここ消毒してやってくれ」
ヤクロウ『メェェ』
ヤクロウの角から放たれた温かな色味のビームが傷を照らす。
ヤクロウのビームには殺菌と痛みの緩和の効果があるのだ。
かなう「どうだ。これで痛みはマシになったろう?」
乙級男子A「ホントだ!ありがとう。すごいね、このヤギ」
かなう「ああ。こいつぁ、私の剣魂でヤクロウってんだ」
ヤクロウ『メェェ』
誇らしげに鳴くヤクロウ。
ここ刀舟斎かなうの養生所には先の雪那の乱で傷ついた生徒たちが数多く収容されていた。
特に他の養生所では疎まれがちな、雪那側についていた乙級生徒を受け入れている。
文「きつくない?」
乙級男子A「うん、大丈夫」
ヤクロウが消毒した傷に包帯を巻いてやるのは五十嵐文だ。
文はしばらく前からかなうの養生所に身を寄せていた。
兄の行方探しが暗礁に乗り上げていた文をかなうが誘ったのだ。
身体を動かして働いていることで気を紛らわせることも出来るだろうと思い、手伝いを始めた文だったが少しずつ人の役に立つことの喜びを知りつつあった。
そんな文のわずかな表情の変化をかなうは嬉しく思っていた。文は本当は戦いに向いている娘ではないのだ。
かなう「よし、次はおまえさんだ」
隣の患者の治療に移るかなう。この少年も手足に火傷を負っていて痛々しい。
かなうは同じようにヤクロウのメディカルビームを使おうとした。
ヤクロウ『ンメェェ』
乙級男子B「剣魂……だ」
ヤクロウにのぞき込まれると少年は表情を暗くした。
かなう「ん?どした?」
文「ひょっとして剣魂が苦手……なの?」
乙級男子B「……うん」
文「ヤクロウは怖い剣魂じゃないよ?」
ヤクロウ『ンメェェ……』
乙級男子B「うん。分かってるんだけど……」
かなう「噛みゃしねぇから、ちっとの間だけ我慢しな」
ヤクロウ『メェェ……』
かなうはまだ怯えている少年の手を取ってヤクロウのビームをあてた。
ビームの効果で苦痛が緩和されたのか、表情が次第に和らいできた。