ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
悠「ご苦労さん、今日はもう帰っていいぞ」
縁台を店内に押し込んだおれは、ちょうどのれんを取り込み終えたところの吉音に声をかけた。
吉音「……うん」
頷きはしたものの、吉音の動きは鈍かった。
悠「どした?」
そういえば店を開いてるあいだもぼんやりしてることが多かったような。
吉音「ううん。なんでもないよ」
吉音は微笑むが、どこかキレのない笑顔。
悠「ならいいけど……」
吉音「ねぇ……もう少しここに居ても、いいかな?」
悠「ああ、腹が減ってんのか」
吉音「ううん、違う」
吉音は小さく首を振った。
悠「最近、少食だな。」
吉音「だめ?帰った方がいい?」
悠「や、別にかまわんけど。あがってけば?お茶くらいは出してやるし」
吉音「うん!」
悠「そういえば、今日、南国先生から昔の話しを聞いたよ。」
流しで茶を淹れる準備をしながら、おれは部屋で待っているだろう吉音に声をかけた。
吉音「昔の話し?」
悠「ああ。南国先生って昔、お前の家庭教師だったんだってな」
吉音「あ、うん。そうだよ」
悠「あの火事のとき、先生お前を抱えて火のなかを抜けて逃げたっていってたよ。やっぱすげえな、あのひとは」
吉音「うん。南国先生はあたしの命の恩人だよ」
悠「そのわりには全然言うこと聞いちゃないけどな」
吉音「あは、はは……」
悠「でも、そんなイイ話しがあるんなら聞かせてくれりゃよかったのに」
吉音「う、うん……ごめん」
弱弱しい返事が返ってきた。
言った瞬間に失敗したと思った。
悠「いや、謝らなくていいって。そうだよな。その頃の話しはあんまりしたくないよな」
たぶん部屋でうつむいてるであろう吉音に慌てて声をかける。
吉音「……ごめん」
悠「そうだ。南国先生、お前のこと、娘みたいに思ってるって」
吉音「……そうなんだ。嬉しいな」
悠「それでさ、吉音のことを支えてやってくれっておれに頭を下げたんだぜ」
吉音「えっ……」
悠「なにもおれみたいな頼りないのに頼まなくってもいいのになぁ」
吉音「ゆ、悠は頼りなくなんかないよ」
悠「だって剣の腕も吉音のほうがずっと上だし、守ってやれないだろ?」
吉音「悠はご飯を食べさせてくれるよ?」
悠「はは。そういうけどさ。お前って実家は凄いお嬢さまだろ?帰る気になればいつだって腹いっぱい食べられるじゃないか」
吉音「違うよ……あたしは悠と一緒に食べるご飯が好きなんだよ」
悠「あ?」
吉音「ううん、違う……あたし、悠と一緒に居るのが好き……」
悠「それってどういう……っと?!」
振り返ったとたん、胸にやわらかなショックがあった。すぐそこにおれを見上げている吉音の顔があった。
悠「ご苦労さん、今日はもう帰っていいぞ」
縁台を店内に押し込んだおれは、ちょうどのれんを取り込み終えたところの吉音に声をかけた。
吉音「……うん」
頷きはしたものの、吉音の動きは鈍かった。
悠「どした?」
そういえば店を開いてるあいだもぼんやりしてることが多かったような。
吉音「ううん。なんでもないよ」
吉音は微笑むが、どこかキレのない笑顔。
悠「ならいいけど……」
吉音「ねぇ……もう少しここに居ても、いいかな?」
悠「ああ、腹が減ってんのか」
吉音「ううん、違う」
吉音は小さく首を振った。
悠「最近、少食だな。」
吉音「だめ?帰った方がいい?」
悠「や、別にかまわんけど。あがってけば?お茶くらいは出してやるし」
吉音「うん!」
悠「そういえば、今日、南国先生から昔の話しを聞いたよ。」
流しで茶を淹れる準備をしながら、おれは部屋で待っているだろう吉音に声をかけた。
吉音「昔の話し?」
悠「ああ。南国先生って昔、お前の家庭教師だったんだってな」
吉音「あ、うん。そうだよ」
悠「あの火事のとき、先生お前を抱えて火のなかを抜けて逃げたっていってたよ。やっぱすげえな、あのひとは」
吉音「うん。南国先生はあたしの命の恩人だよ」
悠「そのわりには全然言うこと聞いちゃないけどな」
吉音「あは、はは……」
悠「でも、そんなイイ話しがあるんなら聞かせてくれりゃよかったのに」
吉音「う、うん……ごめん」
弱弱しい返事が返ってきた。
言った瞬間に失敗したと思った。
悠「いや、謝らなくていいって。そうだよな。その頃の話しはあんまりしたくないよな」
たぶん部屋でうつむいてるであろう吉音に慌てて声をかける。
吉音「……ごめん」
悠「そうだ。南国先生、お前のこと、娘みたいに思ってるって」
吉音「……そうなんだ。嬉しいな」
悠「それでさ、吉音のことを支えてやってくれっておれに頭を下げたんだぜ」
吉音「えっ……」
悠「なにもおれみたいな頼りないのに頼まなくってもいいのになぁ」
吉音「ゆ、悠は頼りなくなんかないよ」
悠「だって剣の腕も吉音のほうがずっと上だし、守ってやれないだろ?」
吉音「悠はご飯を食べさせてくれるよ?」
悠「はは。そういうけどさ。お前って実家は凄いお嬢さまだろ?帰る気になればいつだって腹いっぱい食べられるじゃないか」
吉音「違うよ……あたしは悠と一緒に食べるご飯が好きなんだよ」
悠「あ?」
吉音「ううん、違う……あたし、悠と一緒に居るのが好き……」
悠「それってどういう……っと?!」
振り返ったとたん、胸にやわらかなショックがあった。すぐそこにおれを見上げている吉音の顔があった。