ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】
ー大江戸学園:日本橋近くー
同じころ……日本橋のたもと。
南町奉行所与力、仲村往水の姿。
そして彼女に背中を合わせるようにして目深に笠を被った何者か。
笠の人物「ではお願いします。依頼の内容と調査にかかる費用が入っています」
笠の人物は後ろ手に往水にそっと封筒を手渡した。
往水「あいあい、承知しました」
封筒をさりげなく袂にしまうと往水は振りかえりもせず歩きだした。
笠の人物「あ、あの」
往水「へ、他にも何か?」
笠の人物「徳田さんの様子はいかがですか?」
往水「ああ……ねぇ、お奉行」
往水は呆れた顔でため息を吐いた。
想「な、仲村さん!」
往水「昼の雑踏のなかですよ、誰も気にやしませんよ。こうしてこそこそ話してるほうがかえって怪しいくらいだ」
想「……すみません」
往水「そんなに気になるなら、戻りゃいいのに」
想「私は吉音さんにけして赦されないことをしてしまったんです。だから戻ることはできません。」
往水「ま、事情はよく知りませんけど……吉音さんのほうはそこまで気にしてたんですかねぇ」
想「……」
「あ、いくみん!」
往水「おっと、噂をすれば影ってヤツだ」
想「それじゃ私はこれで。よろしくお願いします」
そそくさと去る想。
吉音「ん?いくみんの知り合い?」
往水「へ?誰かいました?」
吉音「え、うん……じゃ気のせいか」
ー大江戸学園:長屋街ー
夜、長屋。
鬼島桃子は縁台に腰掛けて月を見上げていた。
その手には一通の手紙。
かなう「お前さんが物思いに耽ってるなんて珍しいな。月がまんじゅうにでも見えるのか?」
桃子「ふん。あたいだって考え事する事くらいあるさ」
かなう「それは驚いた」
桃子「おい!」
ふたりは顔を見合せて笑う。
笑いが落ち着くと桃子は手紙をかなうへと差し出した。
かなう「いいのか?」
桃子「ああ」
かなうは受け取った手紙に目を落とす。手紙はすでに何度も繰り返し読まれていると見えてところどころ傷みもあった。
かなう「これは……」
桃子「徳河吉彦、兄貴からの手紙さ」
かなう「あっちもお前のことを知ってたのか?」
桃子「最近のことだけどな。日付が失踪の直前になってる」
かなう「……内容はおまえに対する謝罪だな」
桃子「すまんすまんと謝ってばかりだ。こっちゃ別に気にしてないのに。こっちは自由きままにやらせてもらって、礼こそあっても恨みなんかない。あっちこそあんな堅苦しい生活に押し込まれてさぞ大変だっただろうに」
かなう「ははは。どっちもお互いの生活をまるきり知らないんだ。分からんさ」
桃子「まぁな」
かなう「それにしても文面から誠実さが伝わってくる手紙だな。私には世間で言われているような杜撰な横領事件を起こすようには思えん」
桃子「そうだろ。あたいだってそう思ってる…………。」
桃子は長屋の奥の衣紋かけを見やる。
そこには徳河の紋の入った打ち掛けが月の光を受けてキラキラと光っていた。
かなう「……」
桃子「助けてやらなきゃな……」
再び月を見上げる桃子。
同じころ……日本橋のたもと。
南町奉行所与力、仲村往水の姿。
そして彼女に背中を合わせるようにして目深に笠を被った何者か。
笠の人物「ではお願いします。依頼の内容と調査にかかる費用が入っています」
笠の人物は後ろ手に往水にそっと封筒を手渡した。
往水「あいあい、承知しました」
封筒をさりげなく袂にしまうと往水は振りかえりもせず歩きだした。
笠の人物「あ、あの」
往水「へ、他にも何か?」
笠の人物「徳田さんの様子はいかがですか?」
往水「ああ……ねぇ、お奉行」
往水は呆れた顔でため息を吐いた。
想「な、仲村さん!」
往水「昼の雑踏のなかですよ、誰も気にやしませんよ。こうしてこそこそ話してるほうがかえって怪しいくらいだ」
想「……すみません」
往水「そんなに気になるなら、戻りゃいいのに」
想「私は吉音さんにけして赦されないことをしてしまったんです。だから戻ることはできません。」
往水「ま、事情はよく知りませんけど……吉音さんのほうはそこまで気にしてたんですかねぇ」
想「……」
「あ、いくみん!」
往水「おっと、噂をすれば影ってヤツだ」
想「それじゃ私はこれで。よろしくお願いします」
そそくさと去る想。
吉音「ん?いくみんの知り合い?」
往水「へ?誰かいました?」
吉音「え、うん……じゃ気のせいか」
ー大江戸学園:長屋街ー
夜、長屋。
鬼島桃子は縁台に腰掛けて月を見上げていた。
その手には一通の手紙。
かなう「お前さんが物思いに耽ってるなんて珍しいな。月がまんじゅうにでも見えるのか?」
桃子「ふん。あたいだって考え事する事くらいあるさ」
かなう「それは驚いた」
桃子「おい!」
ふたりは顔を見合せて笑う。
笑いが落ち着くと桃子は手紙をかなうへと差し出した。
かなう「いいのか?」
桃子「ああ」
かなうは受け取った手紙に目を落とす。手紙はすでに何度も繰り返し読まれていると見えてところどころ傷みもあった。
かなう「これは……」
桃子「徳河吉彦、兄貴からの手紙さ」
かなう「あっちもお前のことを知ってたのか?」
桃子「最近のことだけどな。日付が失踪の直前になってる」
かなう「……内容はおまえに対する謝罪だな」
桃子「すまんすまんと謝ってばかりだ。こっちゃ別に気にしてないのに。こっちは自由きままにやらせてもらって、礼こそあっても恨みなんかない。あっちこそあんな堅苦しい生活に押し込まれてさぞ大変だっただろうに」
かなう「ははは。どっちもお互いの生活をまるきり知らないんだ。分からんさ」
桃子「まぁな」
かなう「それにしても文面から誠実さが伝わってくる手紙だな。私には世間で言われているような杜撰な横領事件を起こすようには思えん」
桃子「そうだろ。あたいだってそう思ってる…………。」
桃子は長屋の奥の衣紋かけを見やる。
そこには徳河の紋の入った打ち掛けが月の光を受けてキラキラと光っていた。
かなう「……」
桃子「助けてやらなきゃな……」
再び月を見上げる桃子。