ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:武道場ー

「おい、そこで何をしている!」

十兵衛「南国先生……」

南国「十兵衛か」

十兵衛「ふ、命拾いしたな」

師匠はおれを見下ろして笑みを浮かべると、刀を収めると風のようにその場から駆け消える。

南国「ま、待たんか、十兵衛!お前さんには話しがある」

十兵衛「はは、南国先生、それはまた別の機会に拝聴いたしますよ故、今はさらば」

南国「くそっ」

南国先生は舌打ちをして悔しがった。

悠「……」

南国「そこにひっくり返ってるのは……小鳥遊か」

悠「うい…」

おれは立ちあがってほこりを払う。

南国「一体お前たちゃ何をやってんだ?」

悠「知りませんよ。おれが稽古していたらいきなり斬りかかってきたんですから」

南国「ふうん。十兵衛のやつ、むやみとお前さんのことを気にかけてるようだな」

悠「目の敵にしてるの間違いじゃないですか?もしくはサンドバック……いや、藁束かな」

南国「十兵衛のやつめ、指南役の仕事をほっぽらかして何をやっとるのか」

悠「…………」

南国「それはそうと徳田……いやもう吉音でいいのか、あいつは元気でやってるのか?」

悠「100%全開とはいえないですね、さすがにいろいろありましたから」

ひとの十倍食ってた飯もその半分くらいにはなってるしな。

南国「そうか……」

悠「はい」

南国「吉音と仲良くやってくれてるお前にだから言うが、小鳥遊、吉音のことをどうかよろしく頼む」

悠「なんですか、急に?」

南国「教師としてこんなことをいうのは良くないのかもしれないが、俺はあいつのことは特別気にかかってなぁ」

悠「えっ……!?」

南国「馬鹿野郎。そういう意味じゃねぇ!」

ドゴォ!
悠「痛え!まぁ、確かに教師からすれば目立ち生徒では有りますよね。」

南国「もちろんそれもあるんだが、あいつはちょっとした縁があってなぁ」

悠「縁?」

南国「ああ。吉音のやつから火事の話しは聞いたかい?」

悠「ええ。屋敷が全焼して吉音が両親を亡くしたって話しなら」

南国「そうか。あんとき俺はあいつの家庭教師をしてたんだよ」

悠「家庭教師、ですか?」

南国「ああ。それまで教えてた学校でちょっとばかし面倒を起こしちまってな」

悠「暴力沙汰だ」

南国「当たらずとも遠からずだ」

悠「げ、冗談のつもりだったのに」

南国「んで、その後、縁あってこの大江戸学園で雇ってもらえることになったんだが……赴任前のちょっとの間、徳河の家で吉音の家庭教師をしてたんだよ。ま、一年ほどの間だったんだけどな。で、その間に例の火事が起っちまったってわけさ。そんときによ、俺が吉音を抱えて燃える屋敷から逃げ出したんだよ」

悠「それって吉音の命の恩人ってことじゃないですか!」

南国「厳密にいやぁてろてろと事情があんだけどな。まぁここじゃいいや」

悠「はぁ」

南国「とにかく言いてぇことはだ、オレぁ吉音を娘みてぇに思ってるんだ。小鳥遊、吉音のやつはお前のことを随分気にいってるらしい」

悠「そう、なんですかね」

南国「ああ。あいつのちっちぇえ頃から見てるんだ。笑い声で分かるさ。小鳥遊」

悠「はい」

南国「あいつぁ、ああ見えてもなかなかデリケートなところもあるやつだ。こんな時こそ、お前が支えてやってくれ」

悠「まぁそれは……」

南国「この通りだ、よろしく頼む」

そういって南国先生は生徒のおれに深々と頭を下げた。

悠「分かりました。おれの出来る限り」
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