ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「あー?店をたたむ……ですか?」

結花「ええ。私たち、学園島を出ていこうと思うの」

悠「そんな、どうして……」

突然の結花さんの宣言に驚きを隠しきれない。

結花「表向きは、不景気でお客さんが減ってきたからってことにしてるわ」

学園全体が不景気の波に襲われてからというもの、ねずみやのお客は目に見えて減っていた。

現実的にお金が回らないのだ、それは確かに仕方がないようにも思う。

だけどねずみやはウチなんかと違って超有名店だ、いくら不景気でも足を運ぶ客がいなくなるとは思えない……。

それに……

悠「店をたたむのはともかく、島から出ていくって……」

そうだ、その理由がどこにも見当たらない。

結花「言ったでしょ、表向きはって」

悠「それって……」

結花「怪盗猫目として、最後の仕事があるの。数日中には最後の刀を盗んで、そのまま本土に戻るつもり」

結花さんの瞳からは決意の色が見て取れる。名残惜しさはあっても、決めたことは決して覆さないという覚悟の瞳。

唯「結花姉ってば、ほんと突然言い出すんだもん……」

由真「相談くらいしてくれてもよかったじゃない……」

二人にとっても突然の話だったようで、浮かない表情で残念そうに声を落としている。

悠「……」

由真「私たち三人で怪盗猫目なのに、こんな大事なこと、結花姉ひとりで勝手に決めて」

結花「二人とも……ごめんね」

由真「……あやまらないで。遅かれ早かれ、こうなるって、最初っから分かってたでしょ。それよりお父さんの刀がやっと全部集まるんだから喜ばないと」

唯「ボクたち、その為に頑張ってきたわけだしね」

…………変な沈黙がおれたち四人を包む。

嫌な空気だな……。

同じことを思ったのか、結花さんが無理矢理にでも明るい声を出す。

結花「よし!小鳥遊くん、今までありがとうね。小鳥遊堂がお隣で、私は凄く楽しかったわ」

悠「それはこっちの台詞です。いろいろお世話になりました」

唯「ボクもボクも!悠さん、今度会ったらまた一緒に遊ぼうね!」

悠「ああ。元気でな唯ちゃん」

由真「あの、さ、小鳥遊……」

悠「……」

言いづらそうに一度は口をつぐんだ由真だったけど、結局はいつものように少しぶっきら棒に、だけど、こちらの心配してくれていることがよく分かる。優しい口調で、お決まりの文句をいった。

由真「……ねずみやが無くなるからって、アンタのところが繁盛するわけじゃないんだからね!だから……しっかりやんなさいよ!」

悠「わかってるっての。でも……ありがとうな由真」

由真「……ふんっ」

唯「おやおや?由真姉どうして顔を赤くしてるのかな~?」

由真「っ!そんなことないわよ!ってこら!待ちなさい唯!」

ニヤニヤ笑いを浮かべて逃げ出す唯に、それを全力で追いかける由真。

結花「二人とも、まだ店の片づけ残ってるわよ。遊ぶのはその後でね」

呆れ声を上げながら結花さんがふたりの後を追う。

……そっか、ねずみや無くなるのか。

三人が帰り、ひとりになったところで、その事実が胸の奥にしみ込んでくる。

今まで味方だと思っていた人たちがドンドンいなくなっていく。何とも言えない物悲しさがこみ上げてきたが、オレにはどうすることも出来なかった。
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