ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:かなうの養生所ー

かなう「……どうしたボーっとして」

吉音「べ、別になんにもない……よ?」

かなう「おいおい……そんな顔していった言葉を、この私が信じると思うのか?」

吉音「それは……」

かなう「らしくないじゃないか。どんなことがあっても能天気に笑ってるぐらいがお前にはちょうどいい」

吉音「ああ!ひどいよ先生」

苦笑いではあるが、吉音の顔に少しだけ笑顔が戻る。

しかしそれも、普段の太陽のような笑顔からは到底かけ離れたものだった。

かなう「……」

吉音「……たくさんの人が怪我したよね。」

かなう「ああ」

吉音「……あたし、やっぱりダメだなぁ」

かなう「お前は充分自分にできることをやっただろうが」

吉音「そうかな……」

かなう「こうして診療所を手伝ってくれてるしな」

吉音「……うん」

かなう「ったく、何に落ち込んでるのか知らないが、怪我人の前であんまり辛気臭い顔すんなよ。見てるほうまで気が滅入っちまう」

吉音「うん……気をつける。ごめんね?はぁ」

その後も、吉音の顔にいつもの笑顔が戻ることは無かった。

かなう「言ってるそばからこれだ。こいつはそうとう重症だな……」




ー大江戸学園:小道ー

ある場所に通報があった。

現場に到着した御伽ヶ島左近と同心は首をかしげるばかりだった。

通報の内容は雷が落ちた、何かが発雷している、何かが爆発した……というものだった。しかし、その現場についてみればそこは人通りも少なければ建物もない場所。

左近「んー……コンデンサーでも爆発したのかと思ったけど違うようですねぇ。」

同心A「左近さま」

左近「はいはい、どうでしたかい?」

同心A「はい、周囲を確認しましたが漏電および火器に関する建物は有りませんでした」

左近「そーですか……。ふむ、電線に何かが引っかかった可能性は?」

同心A「いえ、そのような形跡も…」

左近「っと、なるとやっぱりここが現場ですかねぇ」

同心A「そう……なりますね。」

誰かが争ったような形跡はあるが……他にあるのは奇妙に抉れた地面の穴、なにかが走ったような筋、そして壁際にこびりついている煤のような汚れ。

左近「どう思います?」

同心A「さぁ……」

同心B「左近殿」

左近「はいはい?何か?」

同心B「近くに防犯カメラがあったのですが」

左近「それは僥倖僥倖。なにが映ってました?」

同心B「それが……壊れていたそうです。原因は基盤がショートしていたと」

左近「ショート?」

同心B「雷が落ちたりしたら同じような症状になるそうです」

左近「雷ねぇ……真夜中に落雷が数回あってこの辺を暴れ回り何かに火がついて壁だけを焦がしたっていうことなら説明がつくけど……」

同心A「無茶苦茶ですね。」

左近「ま、分からないことを考えたって頭が痛くなるだけですから……適当に片づけて帰りましょうや」

同心A「いいのでしょうか…」

左近「いいんですよ。あ、そうだ。そこのゴミだけ回収しておいてくださいよ」

同心A「はっ」
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