ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:大通りー

越後屋が悠らに語ったとおりだった。

棄損令により一時的に借金は棒引きになったものの、収入が増えたわけではない。時がたつにつれて再び困窮するものが現れる。しかし今度は借金ができない。

しかもそこに増税が追い打ちをかける。以前よりもさらに困窮の度合いは深刻となっていた。

低取得者を中心に執行部の先制への不満の声があがりだす。配給制を盾にしたけん制はあったものの、それだけでは反対運動を抑え込むことは不可能だった。

越後屋「なんやの、あんたら!」

山吹の声が響いた。

北町奉行の面々が越後屋の店の周囲を取り巻いていた。

真留「北町奉行所です!倹約令違反について事情聴取を行いたいので出頭をお願いします」

越後屋「お断りや」

真留「そういうわけにはいきません」

越後屋「うちは悪いことしてるつもりはありまへん」

真留「それはあなたが決めることではありません。執行部から華美な生活を禁じる倹約令が発布されたはずです」

越後屋「そんな阿保みたいなルールにはつきあえまへんわ」

真留「逆らうなら実力行使に出ざるをえませんよ?」

越後屋「上等やわ、それが奉行所のやり方なんやったら、やってみたらええわ」

真留「…………」

越後屋「金がないからいうてケチケチせぇやなんて素人の考え方や。タンスにため込むばっかりで町に金がまわらへん。商売の流れを止めて、学園から活気を奪ってどないするんや。うちくらいはこれまで通りに派手に金を使う。そのことで何人もの手に金が回るんや!なんでそんなことも分からへんのや!」

真留「で、ですが……倹約令は執行部が決めた学園の決まりです」

越後屋「執行部が決めたんやったら、飢え死にせぇって決まりでも守らなあかんのか?」

真留「それは……へりくつです。皆がルールを守らねば治安が……」

越後屋「そもそも誰のための治安やねん。とにかく。うちは間違ってへんよ。だからあんたらとは一緒にいかん」

真留「な、なら、こちらも実力行使に出るしかありません」

越後屋「やってみたらええわ。うちらは戦うだけや。はじめ!みんな!」

はじめ「……うん」

用心棒A「合点だ、姐さん!」

用心棒B「この執行部の犬やろうどもめ、かかってきやがれ!」

真留「遠山様……?」

朱金「…………」

真留「遠山様!」

朱金「……法令に違反するものは謀反人だ。全員引っ捕えろ」

真留「は、はい。越後屋とその郎党、召し捕れ!」

朱金「……謀反人のほうが正しいこと言ってんじゃねぇかよ」



ー大江戸学園:かなうの養生所ー

そのころ、かなうの養生所では

かなう「おう、だいぶよくなってきたじゃねぇか」

乙級男子A「ううっ!まだ痛いんですから叩かないでくださいよ先生!」

かなう「それだけ文句が言えりゃ問題ねぇよ」

先の雪那の乱で傷ついた乙級の生徒たちが治療を受けていた。乱が収束して数日が経ったと言っても怪我人が突然いなくなるわけでもなく養生所は乙級の生徒たちであふれ返っている。

乙級女子A「……ごめんなさい先生」

かなう「何がだ?」

乙級女子A「わたしたちの怪我まで見てもらって……です。だってわたしたちは……」

かなう「関係あるか。お前らは怪我人で私は医者だ。それ以上の龍がどこにいるってんだ。次謝ったりしやがったら許さないからな」

乙級生徒A「……ありがとう先生」

かなう「それでいいんだよ。っと、新!ちょっと手を貸してくれ!」

吉音「…………」

かなう「新?聞こえてないのか?おい新!」

吉音「ふぇっ!あっ、なになに先生?」

吉音が慌てた様子でかなうに駆け寄る。

目安箱の仕事が無くなってしまった吉音は、ここ数日かなうの手伝いをしていた。
82/100ページ
スキ