ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:小道ー

「おー……派手に吹っ飛んだな。それにしても痛ぇ……しばらく怪我してなかったのにこの様だよ」

血は止まったものの遠目からでもわかる深い抉れ傷。この手の怪我は治りにくくて嫌なんだよな。

「ぐぅ……」

壁のそばまで吹っ飛んでいた生の面が動くのが分かった。ずりずりと這いずって壁にもたれかかる。

「うぇ……まだ意識あるのかよ」

正直、今ので落ちてて欲しかった。まぁでも、瀕死みたいだし大丈夫だろう。

「ぐうぅ……。」

短く呻いている。もう大声で叫ぶ気力もないらしい。おれは適度な距離まで詰めていった。

「……ジッとして暴れないって言うんだったら。とりあえず連れて帰って治療してやるよ」

「……りを」

「あ?」

「怒りを……龍剄に変える……」

背筋にいやな汗がドッと湧いた。

「なんか……ヤバいっ!」

動けるうちに逃げる。おれは奴に背を向けて走り出した。背後から感じる熱。暴れて体温が上昇してるんじゃなくて謎の熱気が渦巻いていいる。

「龍剄気孔……橙龍尾!!」

「熱?!」

熱風に飲まれた気がした。サウナのように暑苦しい熱波に後ろから襲われている。これはヤバい、何か分からないけどヤバい。

足が痛いのも忘れて一目散に逃げ出した。熱はダメだ。地電も十分ヤバいけど熱は危険過ぎる。

「っ……はぁ……くそっ。余計な事してしまった。あぁ……鬱だ。くそっ、くそっ……。」





ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

逃げて逃げて逃げてしてどうやって家に着いたかは覚えてない。

悠「はぁはぁ……酷い目にあった」

久秀「あら、汚い」

悠「うわぁぁ!」

久秀「なによ。大声出して」

悠「ひ、ひっ、ひっひっふー」

久秀「あら、子供でも産むの?その血はそういう血なの?」

悠「……はぁぁ、ちげぇよ。痛っててて」

久秀「何があったの?」

悠「なにが……なにがあったんだろうか。分かんない」

久秀「分からないのはこっちなんだけど?」

悠「えーと……詠美と密会して」

久秀「あらあら」

悠「そしてら帰り道で「死の面」を着けた妙なヤツに襲われて……」

久秀「ほむほむ」

悠「そしたら今度は「生の面」が乱入してきた」

久秀「へぇ……悠」

悠「あ?」

久秀「アナタ、疲れてるのよ」

悠「可哀想な物を見る目で見ないで!!」

久秀「やや冗談は置いといて……とりあえず治療しなさいよ。ズボンから足まで血まみれよ。本当に子供でも産むの?」

悠「うげ……がむしゃらに走ったから傷が開いてる」

久秀「明日はきっと辛いわね。女として初めて生まれた朝みたいに」

悠「……」

久秀「女として初めて生まれた朝みたいに!」

悠「なんでそんなに下ネタ押しなんだよォォォ!そういうキャラじゃねぇだろお前!!」

久秀「くすくす」
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