ｰ大江戸学園:小道ｰ

「とりあえず……落ちろ!」

本気で振り下ろした拳を奴は避けた。首を左右に振る程度しか出来ないのにイイ反射神経だ。けど、相変わらずマウントは取っている。このままごり押しでどうとでもできる。

もう一度拳を引いて狙いをつける。

「調子に乗るなって言ってるだろォォォがガァァァァ!!」

なんとか言葉になっているが猿叫のような怒声。同時、ヤツの身体に力が入るのを感じた。起きあがらせるわけにはいかない。おれは下半身に力を込めて伏させようとした。

しかし、奴の取った行動は地面を踏み付けるだった。そして、おれは初めて知ったどんな体勢からでも地面に接していれば赤龍の力が発動する事を……。

「があぁぁ?!」

地電がヤツを媒介しておれにぶつかり悲鳴をあげる……っが、痺れながら拳を奴の顔面に叩きこんだ。

「がふぁっ?!」

「っぉ……多少、痺れたが……。このぐらいの威力なら耐えられる!」

もう一撃とばかりに拳を叩き落とした。コイツも生き物ではある。何度も殴られて相当疲労してきているだろう。そもそもすでに顔を覆っている布は白い面積より赤い面のほうが多い。

「クソがぁっ!」

「ぐぅぅっ!」

再び赤龍のエネルギーをぶつけてくる。されでもさっきより……弱い。確実に疲弊しているもう少し!

「テメェの龍剄何ぞ、道玄のおっさんや神姫に比べたら大したことねぇ」

「……す」

「……あ?」

痛い……。おれは視線を痛みの先へと向けると太股に刺さっている。なにが?やつの指が……だ。手刀とか指突じゃない。とんでもないバカ力でおれの太股を抉っている。

「痛っ?!なっ、このっ……?!」

「貴様ぁ……貴様みたいなドクサレがぁ……神姫お嬢さんの名前を気安く呼ぶなあぁぁぁ!」

なんか……ヤバい。本気でキレてる……。

「どっけえぇぇぇ!」

「!?」

視界がグルんっとまわる。っか、おれ今ひっくり返された?力ずくで……一回転してなんとか着地する。同時に走る痛みに視線を下げると左右の太股のあたりのズボン物とも肉が抉られていた。柏並の馬鹿力……。っか、それよりも……。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……ブッ殺す!!」

気が触れていらっしゃる……。

「こおぉぉぉぉ!」

まさか……この力は鬼状態か?龍剄に鬼状態を使えるってことは道玄のおっさんと雲水のおっさんの関係者?

「おい、ちょっと待て、今さら何だがやっぱりお前九頭竜と百目鬼の知り合いなんじゃ……」

「うがぁっ!」

コンタクトを取ろうとしたが完全に言葉は通じなくなっている。何か分からんが多分、そのスイッチを押しちゃったのはおれなんだよなぁ……。それにしても……。

やつは力任せに殴りかかってくる。

「オラァァッ!」

「……」

空気を切り裂く拳圧。

「ぐらあぁっ!」

「……」

大地を揺らす踏みこみ。

「があぁぁぁ!」

「……」

だが……単純すぎる。さっきまでとは威力も速さも格段に強くなっているのに……一発一発が大振りになってしかもおっそろしく単純なパンチとキックだけしか仕掛けて来ないので難なくかわすことができる。

「ウゥゥゥゥオラァァァ!!」

怒りに飲まれてるって言うか、鬼状態をコントロールできてないのか?まぁ、どっちにしろ……。

「それなら、おれの勝ちだ」

奴の剛拳が来る。それに合わせ自ら死地に踏み込んだミチミチと頬を掠めていき肉をへがれるが構わず、さらにもう一歩踏み込み拳を突き放った。

「が……あっ……ぁ!!!?」

一歩目で崩し、二歩目で撃ち、三歩目で備える。迫り来る恐怖を捻じ伏せ、敢えて危険の懐に 飛び込み、勝利を掴む絶対的な勇気。

「これが……三歩必殺だ。」