ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:小道ー

「チッ!」

「ぉっと!?」

奴は振り向きざまにバックブローを振ってきた。掴んでいた裾を離して身をかがめる。頭上を通過したのを見計らって今度はヤツの胸ぐらに手を伸ばした。

「おら、逃がさないってんだろ!」

掴んだ胸ぐらをグッと引きこんでヘッドソバットをぶちかましてやった。ガンッと鈍い音。

「ッ」

ようやく動きが鈍ったのでそのまま壁際まで追い込んでいった。

「どうだ、少しはおしゃべりする気になったか?あ?」

「…………」

無言。喋りたくないなら喋りたくなるようにするまでだ。僅かにヤツの身体が動こうとしし、おれはすぐに頭をぶつけた。鈍い音が再び木霊する。

「動くんじゃねーよ。お前の龍剄の威力は見てるんだ。ヘタに動くならさらにヘッドソバットぶちかますぞ」

奴の肉もろとも胸ぐらを掴みあげ、赤龍対策に足が浮く程度に吊り上げる。さらにここまで密着していれば奴がどう動いてもおれのほうが早い。

「………るな」

「ん?」

今、確かに何か言った。しかし、それを聞き返す必要はなかった。

「調子に乗るな!このドサンピンがアァァァァ!!」

「うっ!?」

爆発でもしたのかと勘違いしそうなほどの爆音。正確に発音が聞き取れたのがほとんど奇跡に近いほどクソうるさい音量で叫びやがった。とっさに手を離して耳を抑えてしまう。

「こっのクソガキがァッ!」

「っ?!」

奴は叫びながらおれの頭を両手で押さえると、ゴンッと頭をぶつけてきた。ジンッとはしたがそんなには痛くない。それにしても、おれにヘッドソバットされてやり返してくるなんて……アホか異常かのどっちかだ。

「ぐおっ……らぁっ!!」

「ゲハッ?!」

自爆ダメージは大きかったらしい、額でも割れたのか顔につけている布にじわっと赤い染みが広がっている。それで学んだのかヘッドソバット勝負をやめて普通に拳で顔を殴ってきた。

硬くて痛い。だが、これならおれも対抗しきれる。拳を握ってショートアッパーで腹をぶったたいてやった。怒りで我を忘れているらしく深々とめり込む。

「ぐぁっ……っの、くそがぁ!」

また、顔を殴られる。ノーガード戦法ってもんじやゃない、捨て身なのか暴走しているのか殴られたら殴り返すという原始的なやり返しをしてきている。何なんだコイツは、さっきまで死の面と異能勝負を繰り広げていたのと本当に同じ奴か?

「オラァ!どしたコラ!ドクサレがぁ!」

力任せに無茶苦茶に顔を殴られて痛い。痛いけど……お陰で隙ができた。

大振りに放たれる拳を掴んでおれは背負い投げた。ドンっと背中を地面に叩きつけれた衝撃が伝わってくる。

「ぐぇっ!?」

受け身なんか取れるわけがない。無茶苦茶に暴れてくれたおかげで投げが容易に成功したのはいいが……さすがに殴られ過ぎて顔が痛い。

おれはすかさず馬乗りになってヤツをマウントポジションから一度殴りつける。

「さぁ、完全に抑えつけたぞ」

「ざけんなボケッ…がぁっ!?」

バカうるさく叫ぶのでもう一発拳を落とす。今度は鼻に当たったのだろう、顔面の真ん中あたりから赤い染みが滲む。

「デケェ声出すなよ近所迷惑だってんだろ」

「うるせぇっ!!」

「お前がだよ!」

ゴッゴッと二度拳を落した。何度落してもじたばたと暴れる。どうやら黙らせるには顔を潰すつもりでやらないとダメらしい。
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