ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

大江戸学園:小道ー

「痛っ……深くは無いか」

首を指の腹で撫でるとぬめりとした感触。皮膚一枚は裂けてるが深くはないようなのですぐに血は止まるだろう。

さてと……奴はどうなったかな。

『……』

少し離れた壁の側でうずくまっていた例の死の面だが音も沙汰もなくむくりと起きあがった。

「いやいや……マジかよ」

肘も蹴りも確実にダメージに繋がる部位を打っていた。しかし、平然と立ち上がる男。

ゆらりと身体を揺らしながらこちらへと振り返る死と書かれた面は蹴りの衝撃でひびがハイっていた。やつはまた同じように構えを取る。

「ターミネーターかなんかかよ」

反射的におれも構える。こうなったら仕方がない……やりたくはないが龍剄を使わざる得ない。

『……』

「んっ?」

すると、やつの身体が微妙におれの射線上からずれていることに気が着いた。おれではなく、おれの後ろに向いている。それを察しておれは後ろに振り向くと……。

「…………」

いつから、いつの間に居たのか人が立っている。ただ、なんの冗談なのだろうか顔には「死の面」と同じように「命」と一文字書かれた面をつけている。

「おいおい……マジかよ」

前門の「死」後門の「命」……。

おれはとっさに自分の背を壁に向けて左右に警戒した。昼間にあったなら変わった格好の奴らだと笑いのネタにでもできるが……夜にあうと怖すぎる。

『……』

「…………」

じりじりと左右から迫る狂気。どちらもおしゃべりは苦手らしい。

「……ひひ」

変な笑い声が漏れてしまう。こうなったら戦うのではなく逃げる算段だ。「命」のほうがどれくらい強いのかはわからないが、「死」のほうだけでも不気味なのだから相手になんかしきれない。

じりじりと迫り寄ってくる奴らとの距離に注意を払った。そして、両人が射程に入った瞬間地面を踏みつけた。

「赤龍踏!」

龍剄を大地に叩きこんで地電エネルギーに変換し操る技。バチチッと鋭い音をたてて闇夜に三つの閃光が走る。

バチッ!バチッ!バチッ!

「なっ……?!」

一つは当然おれが放った赤龍、一つは死の面から走る赤龍、一つは命の面から発せられた赤龍のエネルギー。

月明かりを容易に超える眩い光。そのなかに居てもショックと驚きでまばたきができなかった。

一瞬で発光は消え、静寂が戻る。

おれは間抜けなことをいった。

「お前ら九頭竜の関係者か」

「…………」

『……』

当然返事はないが動きはあった。バチバチと雷光を走らせ命の面が突っ込んでくる。

ハッと我に返った時には遅かった。おれは間に合わないと覚悟しつつ急所(くび)だけをガードした。

だが、奴はそのまま駆け抜け死の面にぶつかった。

『……』

「…………」

アウトオブ眼中。おれを無視して「命」と「死」が打ち合いだした。
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