ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:街角ー

剣徒A「あっちだ!」

剣徒B「追え、逃がすな!」

堀沿いの道を駆けていく剣徒の一群。

そして……。

由真「ふぅ……やり過ごせたかな」

隠れていた塀の影から姿を現したのは怪盗猫目の三人である。

唯「あぶないところだったね」

由真「正直、これまでで一番ヤバかったかも。」

顔を見合わせて大きく息をつく由真と唯。

結花「……」

由真「でも、これでお父さんの刀も残るは一本!」

唯「長かったね~」

由真「うん、長かった。でもこうして猫目になるのもあともう一回と思うとちょっとさみしいね」

結花「ほらほら。浮かれていないで戻るわよ?ここで捕まっちゃったら元も子もないでしょ?」

由真「は~い」
唯「は~い」

結花「…………ふぅ」

子住三姉妹の長女結花は喜ぶ妹たちを惑いの中で見つめていた。

想の手により一度捕縛された後、南町奉行と猫目の間には暗黙の了解があった。

南町奉行所の調査に協力する代わりに、刀の奪還に限ってのみ盗みを看過されていたのだ。

しかしその秘密協定も雪那の乱の後に想が執行部入りしたことで曖昧なものになっていた。

彼女ら猫目を追うのは南町奉行所だけではない。治安維持のための人員が増強されたことによって取り締まりは厳しさを増していた。

想との約束から刀以外の盗みは制限された猫目には、以前のような貧者への救済行為を行う余裕は無くなっていた。

義賊としてのイメージは薄れてリスクだけが増していく。

それでもこれ以上妹たちを危険にさらすべきなのか……。

唯「結花姉」

結花「え?」

唯「結花姉はうれしくないの?あと一本刀を取り戻せば父様の刀が全部そろうんだよ?」

結花「そうね……頑張って取り戻しましょう!」

唯「うん!」

そうだ、残りあと一刀、一刀なのだ。

そう、気を取り直す結花だった。



同じころ、少し離れたところでは……。

往水「さてと……こんなもんですかねぇ。これ以上は無駄でしょう。引き返しましょう。」

十手で肩を叩きながら、いつものようにかったるそうな往水の姿。

仲間の同心や岡っ引きに声をかける。猫目の追っ手の一グループを率いていたのは往水だった。

「おい、何をやっている。警備に穴ができているぞ。」

往水「ひゃっ!」

平良「おや?仲村さんでしたか」

往水「鬼平どの?」

平良「こちらに怪しいものは?」

往水「えっと、あたしは見てませんね」

平良「そうですか?わざと見逃したという事はありませんか?」

往水「まさか!それは長谷河さんといえどひどい言い草ですよ」

平良「これは失礼。以前、逢岡が猫目を密偵に使っているという噂を小耳にはさんだことがありましてね」

往水「その噂は初耳ですな」

平良「仲村さんも逢岡がいなくなって羽を伸ばされているのでは?」

往水「いやいや、あたしゃ変わりゃしませんよ。あの人は薄情な人ですよ~。自分だけ出世コースに乗っかってあたしは置いてけぼりだ」

平良「仲村さんの口から出世なんて言葉が出るとは思わなかった」

往水「そりゃまたひどい。あたしだって人並みに希望くらい持ってますよ。今夜の鬼平どのは意地が悪いですな」

平良「ふふふ、重ね重ね失敬」

往水「そんじゃ、あたしらは奉行所にもどってもいいですかね?」

平良「ええ、ご苦労様でした」

往水「鬼平どのも」
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