ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】
ー大江戸学園:町はずれの空き屋ー
町はずれの空き屋・廃墟が並ぶ区画。普段なら、特に深夜となれば足を踏み入れることはないだろう場所だ。
呼び出され、指定された場所はここで間違いない。
折れひとりでとの指示もあったし、今何かの策を仕掛けられたら、なす術もない。
詠美「……来てくれないかと思ったわ、悠」
それでも間違いではないようにと、おれの心は信じたがっていた。
悠「アンタの方から呼びつけるなんて、どういうことなんだ?」
詠美「不機嫌なのね。」
悠「……さすがに違うっていうほどおれは人間出来ちゃいない。まぁたた、今は以前よりは疑問のほうが大きいけどな」
詠美「お店が荒らされたことは聞いたわ。それが私のしたことが原因であるなら、申し訳なく思う」
口ではそういうものの、徳河さんの表情は微動だにしない。
まるで表情が消えたまま、氷漬けにされているかのような。
一体どちらが本心なんだろうか……。
悠「それで、おれをここに呼んだ理由はなんなんだ?わざわざこんな場所を選んだんだ、アンタも他人に聞かれたくないことがある。そうなんだろ?」
詠美「……ええ。その通りよ」
悠「……」
少し、語気を強めてしまったかもしれない。
それでもやっぱり、おれの心は徳河に期待している。以前ほんの少しだけ見せてくれた弱い部分に、甘い幻想を抱いているだけかもしれないと、わかっていても。
詠美「この乱れ切った学園を立て直すには、強い力が必要なの。商人たちのようなお金ではなく、由比さんのような暴力でもない。誰も手を出すことのできない絶対的な、法の力よ」
悠「そういう考えは、わからなくもないが……でもそれがどうして吉音やおれたちを捕えることにつながるんだ?」
詠美「最も団結力を強める方法は、共通の敵を作ること。悪党が居ればそれを討伐したものが支持されるのよ。あなたたちは由比さんを野放しにし、何度も鎮圧に失敗しては戦火を拡大させたわ」
悠「それはこっちも望んでしたことじゃない」
詠美「事実は事実よ。私がただの一度で斬ることができたこともね。」
徳河の強さを疑うわけではないけど、あの事については今でも不可解だ。
おれたちが何人で束になってかなわなかったのに、徳河はたったひとりで、あっさり斬って捨てた。
ヨリノブになんらかのトラブルがあったのか、それとも他に何か理由があるのか。
悠「だったら、初めっからおれたちを使わなきゃよかったことだろう。アンタひとりでどうにかできるのに重い腰を上げられなかったのはどう言い訳する?他にやることがあったからか?おれたちが戦火を広めたっていうからか?」
詠美「……この際真実は関係ない。見栄えのする事実を利用するのが、最も効率のいい方法なの。そこに情が入って鈍ってしまっては逆効果になり、さらに混乱を加速させてしまう。こうして事を収めなければ、今もまだきっと混乱の渦中にあったはずなのよ」
悠「……」
なんだ……?徳河の言葉の中身が、変わってきたような。
詠美「多くの人を納得させつつ、権力を執行部に集中させる。私は間違っていないと信じているし、始まったばかりの今やめてしまうわけにはいかないの。もちろんすべてが理想通りに進んでいるわけではないけれど、マイナスを補って余りあるわ。何度もいうけれど、これは必要で最も効果的なことなのよ」
悠「付け焼き刃の納得なんてその場限り、情にほだされないのと、理不尽にえさに使うのじゃ意味が違う。マイナスが今は補えてても、今後より多くの不満を生むことだってある……そもそも、どうしてそんなことをおれにいうんだ?何を言われても今のアンタのやり口に、賛同する気はさらさらないぞ」
吉音は今でもまだ、徳河を持ち上げ続けている。でもおれは、すでに半分は見限っている。
詠美「……きっと、理解しておいてほしかったのね」
悠「きっと?」
詠美「あなたたちには申し訳なく思っているわ。それでも理解して……そう……そうね、協力が欲しいのよ、私は。理由と目的とがわかれば、少なくとも頭ごなしの否定は無くなるでしょ?」
そういいながらも、やっぱり徳河の表情はほとんど動かない。
動かないけれど……今はその真実が、なんとなく理解ができる。徳河の中でも葛藤があるんだ。
嬢が入ると鈍るとか、協力が欲しいとか……そもそもおれを呼び出して、こんなことを訴えてくるとか。罪悪感をおぼえながらも、必要だから自分を殺して非情な手段を取っている。
……それで間違いないんだな?徳河詠美。
悠「……」
詠美「許してほしいとはいわないわ。でもせめて分かっていてほしいの。私は決して、望んでこんな手段をとったのではないということを」
徳河自身がいった、情と実の部分は別だ。
おれがいくら親近感を湧かせようと、納得できない手段を取られれば、反対するしかない。
悠「……」
詠美「この学園を治めるには、幕府が、執行部が強い力を持つしかないのよ」
悠「…………学園を治めるとかおれへの迷惑は知ったこっちゃないし、どうでもいい。それでもアンタが吉音に謝罪しない限り。おれはアンタの味方にはならないし支持もしない。それだけだ」
町はずれの空き屋・廃墟が並ぶ区画。普段なら、特に深夜となれば足を踏み入れることはないだろう場所だ。
呼び出され、指定された場所はここで間違いない。
折れひとりでとの指示もあったし、今何かの策を仕掛けられたら、なす術もない。
詠美「……来てくれないかと思ったわ、悠」
それでも間違いではないようにと、おれの心は信じたがっていた。
悠「アンタの方から呼びつけるなんて、どういうことなんだ?」
詠美「不機嫌なのね。」
悠「……さすがに違うっていうほどおれは人間出来ちゃいない。まぁたた、今は以前よりは疑問のほうが大きいけどな」
詠美「お店が荒らされたことは聞いたわ。それが私のしたことが原因であるなら、申し訳なく思う」
口ではそういうものの、徳河さんの表情は微動だにしない。
まるで表情が消えたまま、氷漬けにされているかのような。
一体どちらが本心なんだろうか……。
悠「それで、おれをここに呼んだ理由はなんなんだ?わざわざこんな場所を選んだんだ、アンタも他人に聞かれたくないことがある。そうなんだろ?」
詠美「……ええ。その通りよ」
悠「……」
少し、語気を強めてしまったかもしれない。
それでもやっぱり、おれの心は徳河に期待している。以前ほんの少しだけ見せてくれた弱い部分に、甘い幻想を抱いているだけかもしれないと、わかっていても。
詠美「この乱れ切った学園を立て直すには、強い力が必要なの。商人たちのようなお金ではなく、由比さんのような暴力でもない。誰も手を出すことのできない絶対的な、法の力よ」
悠「そういう考えは、わからなくもないが……でもそれがどうして吉音やおれたちを捕えることにつながるんだ?」
詠美「最も団結力を強める方法は、共通の敵を作ること。悪党が居ればそれを討伐したものが支持されるのよ。あなたたちは由比さんを野放しにし、何度も鎮圧に失敗しては戦火を拡大させたわ」
悠「それはこっちも望んでしたことじゃない」
詠美「事実は事実よ。私がただの一度で斬ることができたこともね。」
徳河の強さを疑うわけではないけど、あの事については今でも不可解だ。
おれたちが何人で束になってかなわなかったのに、徳河はたったひとりで、あっさり斬って捨てた。
ヨリノブになんらかのトラブルがあったのか、それとも他に何か理由があるのか。
悠「だったら、初めっからおれたちを使わなきゃよかったことだろう。アンタひとりでどうにかできるのに重い腰を上げられなかったのはどう言い訳する?他にやることがあったからか?おれたちが戦火を広めたっていうからか?」
詠美「……この際真実は関係ない。見栄えのする事実を利用するのが、最も効率のいい方法なの。そこに情が入って鈍ってしまっては逆効果になり、さらに混乱を加速させてしまう。こうして事を収めなければ、今もまだきっと混乱の渦中にあったはずなのよ」
悠「……」
なんだ……?徳河の言葉の中身が、変わってきたような。
詠美「多くの人を納得させつつ、権力を執行部に集中させる。私は間違っていないと信じているし、始まったばかりの今やめてしまうわけにはいかないの。もちろんすべてが理想通りに進んでいるわけではないけれど、マイナスを補って余りあるわ。何度もいうけれど、これは必要で最も効果的なことなのよ」
悠「付け焼き刃の納得なんてその場限り、情にほだされないのと、理不尽にえさに使うのじゃ意味が違う。マイナスが今は補えてても、今後より多くの不満を生むことだってある……そもそも、どうしてそんなことをおれにいうんだ?何を言われても今のアンタのやり口に、賛同する気はさらさらないぞ」
吉音は今でもまだ、徳河を持ち上げ続けている。でもおれは、すでに半分は見限っている。
詠美「……きっと、理解しておいてほしかったのね」
悠「きっと?」
詠美「あなたたちには申し訳なく思っているわ。それでも理解して……そう……そうね、協力が欲しいのよ、私は。理由と目的とがわかれば、少なくとも頭ごなしの否定は無くなるでしょ?」
そういいながらも、やっぱり徳河の表情はほとんど動かない。
動かないけれど……今はその真実が、なんとなく理解ができる。徳河の中でも葛藤があるんだ。
嬢が入ると鈍るとか、協力が欲しいとか……そもそもおれを呼び出して、こんなことを訴えてくるとか。罪悪感をおぼえながらも、必要だから自分を殺して非情な手段を取っている。
……それで間違いないんだな?徳河詠美。
悠「……」
詠美「許してほしいとはいわないわ。でもせめて分かっていてほしいの。私は決して、望んでこんな手段をとったのではないということを」
徳河自身がいった、情と実の部分は別だ。
おれがいくら親近感を湧かせようと、納得できない手段を取られれば、反対するしかない。
悠「……」
詠美「この学園を治めるには、幕府が、執行部が強い力を持つしかないのよ」
悠「…………学園を治めるとかおれへの迷惑は知ったこっちゃないし、どうでもいい。それでもアンタが吉音に謝罪しない限り。おれはアンタの味方にはならないし支持もしない。それだけだ」