ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】
ー大江戸学園:大江戸城執行部室ー
そのころ。大江戸城執行部室。
執行部員A「北十三番地区の道路を封鎖していた土塁の撤去は終了しています」
執行部員B「同じく南二十四番地区の焼失家屋の撤去も先ほど完了したと連絡が入りました。」
執行部員A「これより交通網の復旧作業はほぼ完了したことになります。報告は以上になります」
詠美「報告ありがとう」
執行部員たちから各種報告を受ける詠美たち幹部。その中には想や鼎、そして酉居葉蔵の姿もある。
鼎「徳河吉音さんを解放しちゃったと聞いたのですが~」
詠美「はい。これ以上の拘束理由がありませんので」
酉居「北町の遠山がねじ込んできたと聞いたのだが?いちいち奉行ごときの抗議に折れているようでは執行部の体面にかかわるぞ。」
詠美「意見があったのは事実ですが、それが今回の釈放の原因ではありません」
鼎「先生は心配なんです……ほんとは由比さんと吉音さんがグルになってあの騒ぎを起こしたという噂を聞いてしまって~」
詠美「その噂については調査中です」
酉居「とにかく治安部隊の強化は急務だ。すぐにでも追加予算を計上したい」
想「お待ちください。学園の財政は相変わらず窮しています。先の乱で焼失、損壊した施設の復興費用すら満足に捻出できない有様です」
酉居「ならば増税すればよかろう」
想「それは生徒たちの反発を買います」
酉居「だからこそ支持率の高い現在のうちにこそ行うべきだというのだ。すでに棄捐令を出して一般生徒たちの歓心は買ってやったではないか」
想「それは一時的なものです。商人に引き続いて一般生徒たちの反感まで煽るような政策には賛成できません」
酉居「生徒の顔色わ見過ぎだ。我々指導部はもっと毅然とした態度でことに当たるべきだ。おい資料をだせ」
執行部員C「はい。こちらが増税を行った場合の改訂版の予算案となっております」
酉居に命じられた財政担当の執行部員はレジュメを配る。
酉居「併せてこちらも見てもらおう」
酉居が目くばせするとまた別の執行部員が一冊のファイルを詠美に手渡す。
詠美「これは……?」
酉居「前将軍徳河吉彦と副将軍水都光姫が、執行部予算の不正な流用を行っていたという証拠だ」
鼎「こ、これは本当なの?」
酉居「ある信頼できる筋からの情報です」
酉居は、雪那と通じていたという疑惑をかけられ、謹慎状態にあった。
しかし新体制の確立には、彼のコネクションは非常に有用であるとの理由で、事実上の復権となっている。
酉居自身も、詠美の決意によりようやく強い施政ができると、遺恨を捨て去り息まいていた。
想「まさか……光姫さんがこんな。信頼できる筋とはいったいどのような?」
酉居「それは情報提供元との取引により今は教えることはできない。ただこれは校長の印もある公文書であることは間違いない。そしてこの事実を公表する事で生徒たちの不満の矛先を誘導する事ができる。」
詠美「…………」
想「私は反対です。五人組による買い占め、由比雪那の反乱。それらによる生徒達の困窮はすでに相当なものです。そこにこれ以上の負担を強いれば反発を避けられません。むしろ治安維持部隊など軍備を縮小して、その予算を生徒たちの生活援助に回すべきです」
酉居「ならば物資の配給制を実施して反対運動を抑えれば良い」
想「それはあまりにも横暴すぎます!」
酉居「逢岡、お前の判断ではない。決めるのは徳河だ」
詠美「…………」
鼎「吉音さんは貧しい人たちに人気があるのでしょう?彼女が彼らを率いて反乱をおこしたら……」
詠美「……分かりました。今は武の力に頼らざるを得ない」
想「徳河さん」
詠美「……どうか逢岡さんも協力してください」
想「…………」
鼎「いろいろ大変だと思いますがぁ、あなたたちならきっと大丈夫ですからぁ」
詠美が会議の終了を宣言すると、飛鳥鼎はそういって執行部室を後にした。
それに続いて執行部員たちも執行部室を出て行った。
想「失礼します」
最後に残った想も頭を下げて退出しようとした。
詠美「逢岡さん……」
想「はい?」
背中に投げかけられた声に部屋を出かけていた想は立ち止まり振り返る。
詠美「…………」
想「…………」
詠美「何でもない……ごめんなさい」
しばらく逡巡した後、詠美は会話をあきらめた。
想「……それでは失礼します」
想も追及はしなかった。もう一度頭を下げて出て行った。
詠美「……あぁ」
独りになった詠美はため息をひとつこぼした。
そのころ。大江戸城執行部室。
執行部員A「北十三番地区の道路を封鎖していた土塁の撤去は終了しています」
執行部員B「同じく南二十四番地区の焼失家屋の撤去も先ほど完了したと連絡が入りました。」
執行部員A「これより交通網の復旧作業はほぼ完了したことになります。報告は以上になります」
詠美「報告ありがとう」
執行部員たちから各種報告を受ける詠美たち幹部。その中には想や鼎、そして酉居葉蔵の姿もある。
鼎「徳河吉音さんを解放しちゃったと聞いたのですが~」
詠美「はい。これ以上の拘束理由がありませんので」
酉居「北町の遠山がねじ込んできたと聞いたのだが?いちいち奉行ごときの抗議に折れているようでは執行部の体面にかかわるぞ。」
詠美「意見があったのは事実ですが、それが今回の釈放の原因ではありません」
鼎「先生は心配なんです……ほんとは由比さんと吉音さんがグルになってあの騒ぎを起こしたという噂を聞いてしまって~」
詠美「その噂については調査中です」
酉居「とにかく治安部隊の強化は急務だ。すぐにでも追加予算を計上したい」
想「お待ちください。学園の財政は相変わらず窮しています。先の乱で焼失、損壊した施設の復興費用すら満足に捻出できない有様です」
酉居「ならば増税すればよかろう」
想「それは生徒たちの反発を買います」
酉居「だからこそ支持率の高い現在のうちにこそ行うべきだというのだ。すでに棄捐令を出して一般生徒たちの歓心は買ってやったではないか」
想「それは一時的なものです。商人に引き続いて一般生徒たちの反感まで煽るような政策には賛成できません」
酉居「生徒の顔色わ見過ぎだ。我々指導部はもっと毅然とした態度でことに当たるべきだ。おい資料をだせ」
執行部員C「はい。こちらが増税を行った場合の改訂版の予算案となっております」
酉居に命じられた財政担当の執行部員はレジュメを配る。
酉居「併せてこちらも見てもらおう」
酉居が目くばせするとまた別の執行部員が一冊のファイルを詠美に手渡す。
詠美「これは……?」
酉居「前将軍徳河吉彦と副将軍水都光姫が、執行部予算の不正な流用を行っていたという証拠だ」
鼎「こ、これは本当なの?」
酉居「ある信頼できる筋からの情報です」
酉居は、雪那と通じていたという疑惑をかけられ、謹慎状態にあった。
しかし新体制の確立には、彼のコネクションは非常に有用であるとの理由で、事実上の復権となっている。
酉居自身も、詠美の決意によりようやく強い施政ができると、遺恨を捨て去り息まいていた。
想「まさか……光姫さんがこんな。信頼できる筋とはいったいどのような?」
酉居「それは情報提供元との取引により今は教えることはできない。ただこれは校長の印もある公文書であることは間違いない。そしてこの事実を公表する事で生徒たちの不満の矛先を誘導する事ができる。」
詠美「…………」
想「私は反対です。五人組による買い占め、由比雪那の反乱。それらによる生徒達の困窮はすでに相当なものです。そこにこれ以上の負担を強いれば反発を避けられません。むしろ治安維持部隊など軍備を縮小して、その予算を生徒たちの生活援助に回すべきです」
酉居「ならば物資の配給制を実施して反対運動を抑えれば良い」
想「それはあまりにも横暴すぎます!」
酉居「逢岡、お前の判断ではない。決めるのは徳河だ」
詠美「…………」
鼎「吉音さんは貧しい人たちに人気があるのでしょう?彼女が彼らを率いて反乱をおこしたら……」
詠美「……分かりました。今は武の力に頼らざるを得ない」
想「徳河さん」
詠美「……どうか逢岡さんも協力してください」
想「…………」
鼎「いろいろ大変だと思いますがぁ、あなたたちならきっと大丈夫ですからぁ」
詠美が会議の終了を宣言すると、飛鳥鼎はそういって執行部室を後にした。
それに続いて執行部員たちも執行部室を出て行った。
想「失礼します」
最後に残った想も頭を下げて退出しようとした。
詠美「逢岡さん……」
想「はい?」
背中に投げかけられた声に部屋を出かけていた想は立ち止まり振り返る。
詠美「…………」
想「…………」
詠美「何でもない……ごめんなさい」
しばらく逡巡した後、詠美は会話をあきらめた。
想「……それでは失礼します」
想も追及はしなかった。もう一度頭を下げて出て行った。
詠美「……あぁ」
独りになった詠美はため息をひとつこぼした。