ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー大江戸学園:武家屋敷ー

「何をごちゃごちゃいってる!ええい、皆の者、かかれ、かかれ」

天狗党一味は刀を抜いて、おれたちに迫る。

「えっと、悠はその辺りに隠れててね」

「いわれなくともそうするよ。」

新の提案に乗ろうとするおれに金さんがいった。

「だったらどうしてついてきたんだよ。」

「おれだって新の奴を追いかけてきただけだし、玄関開けたらすぐ立ち回りだなんて思わないだろ!」

「しょうがねぇ、邪魔しないようにな。」

「おう!」

おれが木陰に逃げ込もうとするまえに天狗党員のひとりが動いて大乱戦が始まった。

「逃がすかぁ!」

「げっ!」

天狗党のひとりが丸腰のおれに斬りかかる。
太刀筋を見切って突進をワンステップで避けておれは後ろから尻を蹴り飛ばした。

蹴られた天狗は無様につんのめって転んでしまう。

「おれは戦闘要員じゃねーぞ!」

ぐるりと周りを取り囲む天狗達をじろりと睨むと、金さんはずしんとドスのある声をあげた。
その迫力には刀を持った大の男達ですらびくりと身体を震わせる。

「おい、てめえら!お前たちは運がいいぜ?これからこの金さんがとてもいいものを見せてやる」

金さんの思わせ振りな言葉にざわつく天狗達。

「こんなときに見せるいいものってなんだ……おっぱいか?」

「悠はそればっかりだね」

「よっく目を見開いて……拝みやがれ!」

金さんは右の腕をぐっと袖の中に引き込むと、勢いよく合わせを開き右肩を剥き出しにした。

おれは思わず見とれてしまった。
いや、おれだけじゃない。その場にいた者全てが目を奪われた。

金さんの右肩にはみごとな桜吹雪が描かれていた。金さんが最初にうちに来たときにちらりと見えたあのタトゥーだ。

「花も見ごろの桜吹雪、こいつはお前らにやるオレからの餞別だ。お前ら、これからしばらくこんな目の保養は出来ねぇぜ?さぁ!しっかり目に焼き付けた奴から……かかって来やがれ!」

流れるような名調子で啖呵を切る金さんにいつもの遊び人の雰囲気はない。
刀を向けている天狗党一味ですら一瞬息を飲む迫力だった。

「く……な、なにをしておる!相手は三人だぞ、一斉にかかれ!」

「おれを数にいれないでっての!」

「とあああ!」
「ええいっ!」

二人の党員が時間差で金さんに斬りかかる。
二つの太刀筋をタイミングよく左右に捌くと二人の首筋に連続で手刀を叩き込んだ。

打たれた二人は一瞬動きを止め、そして糸の切れた人形のように力なく倒れる。

素手の一撃で二人を倒した金さんのパワーを目の当たりにして、取り囲む天狗党の輪が緩む。

「なんでい、なんでい、びびってんのか?」

天狗党の幹部は声をあらげて叫んだ。

「なにをしておる!かかれ!かからんか!」

上段から斬りかかってくる天狗党員だが金さんは、その手首を掴んで相手の動きを封じてしまう。

「もっと鍛えろよ。」

「このおぉ!」

金さんの手の塞がっている隙を狙って別のひとりが斬りかかった。
76/100ページ
スキ