ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:北町奉行所前ー

おれと吉音が北町奉行所での留置をとかれたのは雪那の乱終息から三日目のことだった。

真留「すみませんでした……」

奉行所の門を出ると真留がおれ達の出てくるのを待っていた。

小さな身体をいつもより縮めるように真留はおれ達に頭を下げた。

悠「なんで真留が謝るんだよ。指示に従っただけだろ?」

真留「でも、あの指示が正しかったとは、私にはどうしても……」

悠「それは……おれにも分かんないけど」

思わず吉音の顔を見てしまう。

吉音「え、詠美ちゃんには……何か事情があったんだよ」

悠「……とにかく、まぁ、三日で出てこれたことを喜ぼう」

真留「それは、遠山様が執行部に講義をされて……」

朱金が徳河さんにすごい剣幕で詰め寄っている様子が浮かんだ。

悠「真留から礼をいっておいてくれないか?」

真留「お礼……ですか?遠山様からは謝罪をあずかっていますが」

悠「朱金にだって罪はないだろ。おれ達のために抗議してくれたなら礼を言わなきゃ」

真留「……はい」

悠「みんな立場があるからな。そうだろ、吉音?」

吉音「う……うん」

悠「ま、どうしても謝りたいっていうなら店に来てツケでも払うなり、何か注文して売り上げに貢献してくれるように伝えておいてくれ。店が暇なのが一番困るしな、にひひ」

真留「わかりました」

悠「それじゃ行こうか。吉音」

吉音「はい」

真留「…………………」



ー大江戸学園:大通りー

悠「……」

吉音「……」

おれと吉音は言葉少なに小鳥遊堂への道を歩いていた。

たった三日の間に雪那の乱の痕跡はほとんど失われていた。

バリケードや焼け跡など目立つものはすべて取り除かれていて、学園は日常を取り戻しているように見えた。

けれどほんのかすかだが学園の空気に違和感を感じている。

静まりかえっているわけではない。この日本橋だっていつもと変わらない人通りがある。

ただどこか張り詰めたような……。

おれは隣を歩く吉音の横顔を見るとやはり何か落ち着かない様子で辺りを見回していた。

敏感な吉音のことだ。きっと同じことを感じているはずだ。

瓦版屋「号外だよ!」

吉音「ふあっ!?」

不意に紙切れを突き付けられてぎょっとする。

悠「あ、ああ……号外?」

瓦版屋「号外だよー!」

顔をあげると瓦版屋はもう別の通行人へと号外を配っていた。

おれは手にした号外に目を落とす。

悠「あれ?エレキ新聞じゃないのか」

輝のとことの名前が違っている。

吉音「あっ、詠美ちゃんだ」

瓦版を隣で覗きこむ吉音が声を上げる。

悠「どれどれ……徳河詠美を中心とする臨時執行部が発足……後見人は飛鳥校長代理。これは事実上の将軍ってことだな、お前はコレで満足か?」

確かに号外には徳河さんの写真が載っていた。

吉音「え、あ。もちろんだよ!」

号外の内容は臨時執行部発足の告知と彼らの事後処理の手際の良さを賞賛するものだった。
58/100ページ
スキ