ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:張孔堂前ー

悠「ふざけるなよ。そんなことを言いだしたら根本的な原因はアンタらだろ。連携も取れずにうだうだうだうだと面子と意地に拘ってこんな結果になったんだろうが。それをおれらだけに押し付けるのは虫が良すぎるか、やり口の悪い詐欺だ。」

詠美「だからこそ今、手を打ってるのよ。膿を出すためにね」

悠「なんだと……このっ」

平良「おっと、大人しくしてもらおうか」

長谷河の刀がおれに突き付けられる。

悠「……やるってんならやってやるよ。でも、それには覚悟しろよ。例え骨の一本や二本折られても何人かは道連れにしてやる。こっちはな……師匠とやらなかったから元気はあるんだ。さぁ来いよ!ケガしたいヤツらからかかっこい!」

飛びかかって行こうとした瞬間、おれの服を後ろから吉音が引っ張った。

吉音「悠、やめよう」

悠「吉音……?」

吉音「……それが、詠美ちゃんの望んでいることなの?」

詠美「そうよ。これがあらゆる面で、もっともいい方法なの」

吉音「じゃあ、いいよ。詠美ちゃんの言う事は間違いないもん」

悠「おい……」

吉音「それで詠美ちゃんの役に立てるなら、おやすい御用だよ」

詠美「……またあなたはそんな言い方をするのね」

悠「させてるのはどいつだ……」

詠美「長谷河さん、お願いするわ」

平良「ああ。この二人を連れていくぞ」

悠「触るな!自分の足で歩ける。……あとでもう一度、納得のいく説明をしてもらうぞ、徳河」

詠美「その必要が生まれれば、ね」

悠「……のろまを自覚しているペンギンを、すばしっこさを 自慢しているシロクマは捕まえることはできない。」

詠美「なに?」

悠「……」

吉音は本当に無抵抗だった。おれはせめてそこらの奴らをぶん殴ってやろうかと考えたがやめておいた。

おれ達は、先勝の余韻に浸る間もなく、火盗の面々に囲まれて連行された。

それはまるで、由比雪那と同じ姿だった。





ー北町奉行所施設ー

火盗によって押し込められたのは、北町奉行所の施設の中だった。

火盗からの出張か、ガッチリ見張りをつけられ、当然ながら自由に出入りする事は許されない。

伝え聞いた情報によれば、吉音(とおれ)は、ゲリラを率いて学園を荒らした張本人にされているらしい。

無用に戦乱を広げた……とあの時徳河から聞いた話しそのままだ。

徳河の血を引いていることも明らかにされてしまったが、そちらに関しては割れているのだという。

曰く、徳河でありながら市井に身をやつし、ゲリラ組織などを率いているとは、という憤り。

そして血筋に拘らない、自由な庶民目線を持っているという賞賛の二通りだ。

それは別にしても、こちらはこちらで努力を続けてきた結果なのに、この仕打ちは納得できない。

吉音「きっと、これが詠美ちゃんの考えた学園を治める一番いい手だったんだよ」

悠「仮にそうだとしても、その犠牲を出さずに統治するのが本当に大切なことだろ。こんなもんやり口は由比雪那と変わらない。それをお前は利用され乏しめられたんだぞ。腹は立たないのか?」

吉音「……詠美ちゃんの役に立てたんなら、それでいいよ」

吉音の二言目にはいつもそれだ。

本気でそう思っているのか、そう思いこもうとしているのか……おれには判断がつかない。
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