ｰ大江戸学園:張孔堂前ｰ

雪那「しかし、戦局にはなんの影響も有りません。倒すべき徳河がひとり増えただけです。ヨリノブに手も足も出ないあなた方では、ますます徳河支配の無力さを宣伝するだけです!」

詠美「果たしてそうかしら。あなたの頼りにしているヨリノブだけど、どこか調子が悪いのではなくて?」

雪那「なに?」

悠「……」

言われてみれば、火炎を放った後も口から火花のようなものが散り、それが収まる気配もない。

なんだろう。もしかしてマゴベエと衝突したときに、ヨリノブの方にもバグが発生したんだろうか?

雪那「……ここまで長時間使用したことはありませんでしたからね。しかし!今すぐに決着をつけてしまえば何の問題もありません。やりなさいヨリノブ!」

詠美「こちらも、この機会を逃すつもりはない……!」

ヨリノブから再度火炎が噴き出される。

しかしそれより一瞬早く、徳河さんが懐へと潜りこみ、鋭いなぎ払いを見舞った。

ヨリノブ『ギャオォォオオッ!』

朱金「おお、斬った!」

雪那「なんだと!そんなバカな!」

これまでいくら剣魂をぶつけても、傷ひとつつかなかったヨリノブの巨躯。

しかし徳河さんの太刀の一閃は、見事にヨリノブの尾を切り裂いていた。

悲鳴を上げて身をくねらせるヨリノブに、さらに徳河さんの追撃が入る。

詠美「せあっ!はっ!イィヤッ!」

タケチヨ『ヒュォォオオオ！』

ヨリノブ「ギシャァァッ!ジャッ!ォオオオオオンッ!!」

徳河さんの刀が、まるで紙を裂くようにヨリノブをなますにしてゆく。

例のタケチヨの真空波が乗っているのだろう、宙に浮いたままヨリノブの身体がバラバラにされていく。

雪那「お……おお……何が起こっている……これは、一体なんだ……?」

詠美「とどめよ!」

ヨリノブ『ギェェアアアアア!!』

雪那「ヨリノブが……消える……消えるうううう!!」

桃子「おおおすげえ!ヨリノブを倒した!」

十兵衛「見事だな。やるべき時にやる。やはり詠美は立派に資格を持っているよ。」

悠「師匠……あんたは一体……」

想「剣魂の再召喚には時間がかかります!この機を逃してはなりません!」

真留「はいっ!御用だ御用だー!」

平良「貴様にはもう逃げ場はないぞ!」

朱金「てめーの生身でオレたちにかなうと思ってんのか!?」

雪那「うあ……うああ……くるなぁ～～!」

ヨリノブを失った由比は哀れなほど取り乱している。彼女は今、自分がどれだけ無力だったのかを思い知っているだろう。

十兵衛「小鳥遊、生き抜くのに必要なのは心の強さだ。いかに剣の腕があっても、心が先に折れれば、たとえ相手が赤子であろうとも歯が立たないだろう」

悠「師匠……」

十兵衛「それに、戦いに理由をつけているようではまだまだ二流だ。もっと精神を研ぎ澄ませ。自身を一本の剣にしてみせろ」

悠「自身を、剣に」

十兵衛「それこそが武士道であり、侍魂なのではないかと、私は思う」

悠「……これから師匠はどうするんですか?」

十兵衛「さて。刀は刀だからな。必要になれば現れ、必要でなければ鞘に収まるだけだ」

十兵衛「ではな」

それだけ言い捨てると、師匠は黒い疾風のように走り去って行った。

その行き先は分からない。

きっと彼女の言うように、必要になれば再会し、そうでなければ二度と顔を合わせることもないんだろう。

最後までその真意は読めなかったが、ただの利害やゃ棒で由比についていたのではないと……そう信じたい。

寅「付け入る隙がないヤツだな」

悠「まったくだ……。まぁでもガチでやり合うのは回避できたんだから良かったのかもしれない」

雷太郎「果たして」

風太郎「そうかな」

悠「なに?」

雷太郎「今捕えるなり」

風太郎「倒すなりしを」

雷太郎＆風太郎「「後々厄介にならないか?」」

悠「……そういうタイプじゃないさ。あのひとは、それに敵になるっていうんなら迎え討つだけだ」

雪那「あああ……無敵のはずなのに……こんなはずではなかったのに……」

……ともかく、雪那は捕えられた。これで彼女の起こした騒乱は終幕を迎えたのだ。