ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:張孔堂前ー

悠「新っ!どうした!?」

快活を絵に描いたような吉音が、今は虚空を見上げて震えるばかり。

どうしたんだ?吉音は何を見ているんだ?

吉音「火……火はやだ……ぁぁぁ。熱いよぅ……熱い……苦しい……」

吉音は火が苦手なのか?しかしそんなことは、今まで聞いたことがないぞ。

ヨリノブ『ゴァアアッ!』

まずい、ヨリノブが気づいた!

雪那「戦場で呆けるなど……叩き潰してしまいなさいっ!」

ヨリノブ『ジャァァアアアア!』

周囲に火炎を撒き散らし、敵を遠ざけてから、大きく尾が振り上げられる。

その目標はもちろん吉音だ。

悠「危ない!逃げろおお!」

雪那「もう遅いっ!」

おれがいくら呼びかけても、吉音は身をすくませたまま動けない。

そこに大上段から、ヨリノブの尾が落ちてくる……!

マゴベエ『ピュイーッ!』

吉音「あっ!?」

吉音がやられるか……という瞬間、横合いからマゴベエが突っこんで来て、尾の軌道を逸らせた。

マゴベエ『ピ……ピュイッ!』

ヨリノブの太い尾に背を打たれ、よろよろと流れ落ちていくマゴベエ。

雪那「雀風情が……邪魔ですよ」

ヨリノブ『シャッ』

マゴベエ『ピュイィイーッ!』

至近距離からの業火が、マゴベエを焼き尽くす。

上限を遥かに超えた負荷を受けたマゴベエは、悲痛に一声鳴くと光の粒になって消えていった。

悠「マ、マゴベエーーっ!」

雪那「脆い。まるで折り鶴ですね」

由比が嘲って笑う。

悠「何だとっ!」

雪那「無駄なあがきを。いつまで時間稼ぎをしているつもりですか?」

異変はその時だった。

悠「服の色がっ……!」

吉音の紺の標準色から、純白の、そして徳河の家紋の入った者へと変わって行く。

雪那「なに?その三つ葉の家紋は徳河家の者にしか、使用を許されていないはずですが……」

詠美「そういうことよ。彼女の本来の名は徳河吉音。徳河家嫡流の中の嫡流よ。マゴベエの力で見た目を変えてはいたけれど、こちらの方が彼女の真の姿よ。」

ヨリノブの火炎で異常負荷を受けてマゴベエにバグでも発生したのかもしれない。

吉音「詠美ちゃん……」

吉音が悲痛な声を上げた。これまでは身分を偽ることに協力してくれ居たのに……。

詠美「この際だわ。由比さんにも分かっていただいた方がいいでしょう。あなたの見ている世界はあまりに狭すぎる。本当に果たすべきは、目指すべきはどこか、考え直すべきね。」

雪那「徳田新が徳河家の一員……さんな、バカな……」

朱金「……まぁ、そんなこっちろーと思ってたがな」

悠「知ってたのか、朱金。」

朱金「なんっとなくな、へへっ。ま、御前試合に出たり、変に詠美と仲が良かったり、妙に思ってた奴は多かったんじゃねえか」

言われてみればそうか。隠してる割にどんどん表に出て、無防備だったしな。
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