ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:執行部室ー

想「そうなると柳宮さんの方をなんとかしなければなりませんね。小鳥遊くんは彼女の道場に通っていましたし、あのとき一騎討ちを挑みましたが……何か弱点などはありましたか?」

悠「弱点……とりあえず、おれの腕では十兵衛の足元にも及ばなかった、正直オールステータスカンスト気味に強い」

桃子「実際あいつは一騎打ちじゃ学園最強だからな……」

……そういえば師匠も謎な人だな。普段誰とどんな事をしているのか、家族はどんな人が居るのか。

プライベートなところはなんにも知らないなぁ……。

詠美「つまり純粋に人数をかけ、力で押さえるしかないということね。もしかするとヨリノブより厄介な存在かもしれないわね……。」

1+1が2にならない典型だ。それぞれ別々なら、なんでもしようがあるのに。

今のところこちらに有利な点といえば、勢力の絶対数では圧倒的に上回っているところだろうか。

悠「結局物量作戦でいくしかないってことかな……」

倒されても倒されても、それを踏み越えて攻め続ければ、いずれ疲れ果てる。

皆が喜んで戦ってくれるかは不安だけど、勝率は高いはずだ。

朱金「そんな作戦を取るんだったら、その前に少しでいい、オレに時間をくれ」

詠美「何か策が?」

朱金「策なんて何もねぇさ……だがここまで由比をのさばらせてきたのは、オレが原因だ。オレが最初から本気でヤツを潰すつもりだったら、こうまでならなかったかもしれねぇ」

詠美「……うぬぼれているのではないの?あなたにそこまでの力があったとでも?」

朱金「実際はどうでも、オレが納得できねぇんだよ。自分のケツは自分で拭きたい。ヨリノブにぶつかるのは、オレとハナサカを最初にさせてくれ。なんとしてでもヨリノブを食いとめる。その間にお前たちは、柳宮なり由比なりをやればいい」

詠美「止められなければ?」

朱金「そんときゃ全員でやるっつー作戦に戻せばいい。最初だけでいいんだ。頼む」

詠美「……本当に無策なのね。ただ意地を通したいだけのように聞こえるわ」

朱金「実際そうなんだから仕方がねぇ」

詠美「驚かされるわね……あなたが私に頼む、だとか、素直に言われたことを認めるだとか」

悠「……」

これまでの朱金だったら、相手が徳河ってだけでまともに取り合おうとしなかった。

そこへ自分の非を認めながら頭を下げるなんて、考えられなかったことだ。

詠美「長谷川さん、どう?」

平良「町奉行がそんな勝手をして欲しくはない……とは思うが、コイツはサボり続けの不良奉行で有名だからな。ひとり消えたところで大きな影響はないと思う。好きにさせたらいいんじゃないか?」

詠美「ふふ……だそうよ。よかったわね。他のみんなはどう?」

桃子「カッコイイじゃないか。あたいはそういうの好きだぜ」

吉音「うんっ!頑張ってね金ちゃん!」

想「この人は言い出したら何も聞きません。最初から居ないものと考えれば、どのようにでも」

悠「ただ全員でぶつかるよりは、根拠なんてなくてもなぜか期待してしまうしな」

久秀「そもそも悠は今の意見に口出しはできないでしょう?独自判断で突っこんで惨敗してるんだから」

悠「うるせーよ!」

朱金「へっ、ありがとよ。真留後を頼んだぜ」

真留「はいはい……いつものことですからねっ。お任せください。まったくもう」

詠美「では決まりね。最初だけは遠山さんに任せる。その次に全軍で波状攻撃という作戦で、由比雪那と決着をつける。大きな被害が出ると予想されるわ。ここで決めるわよ」

徳河さんの宣言に、皆でそろって力強く頷く。

朱金「猫目には錯乱を担当してもらおう。越後屋んところのイチもかなりの腕だぜ」

悠「大神伊都や眠利シオンも引きこみたいところだな。ついでにもう一度寅と疾風迅雷コンビ、一筋縄ではいかないだろうけど……」

桃子「うへ……シオンかー。まぁ仕方ないけど」

……こんな風に、全員で協力して戦う事になるなんて。

少し前までは北町と南町でナワバリ争いをしていたし、幕府となんて不仲の極みだったし。

結束するためには共通の敵を作ればって話しはよく聞く。これもいい方向に捕えておいた方がいいよな。

こちらの最も有利な点は、人数と人材で大いに勝っているところだ。単純に大人数で押し包めば、ヨリノブでも持ちこたえられるかもしれない。

最悪の最悪でも、由比雪那及び柳宮十兵衛が疲労でぶっ倒れるまで戦い続ければこちらの勝ちだ。せっかくまとまって士気があがっているところだ、これ以上相手に勢力を広げられる前に決めたい。

詠美「とても策とは呼べない力押しをするしかないけれど、よろしくお願いするわ」

朱金「大将がそんな弱気でどうするんだよ!もっと景気よくいけよな!」

詠美「……大将?」

吉音「そうだよ!詠美ちゃんは次の将軍でしょ?一番偉いんだから!」

桃子「徳河家の人間はそんなにナヨナヨしてのか?」

平良「サポートは私たちに任せろ。大きく胸を張っているのも大切な仕事だぞ」

詠美「…………そうね。悪いことばかりを考えていても仕方がないわ。力押ししかできないなら、頭の方もそう切り替えるべきよね」

徳河さんの顔に軽く微笑みが浮かぶ。

それがどういう意味かは分からないけど、とりあえずみんなの腹はくくれたようだ。

悠「とにもかくにも……決戦だな」
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