ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:張孔堂前ー

ガキンッッ!!

伊都「……えっ?」

決まるかと思った瞬間、突然黒い影が雪那のまえに立ちふさがって、大神の白刃を防いだ。

悠「あ、あれは……」

伊都「や、柳宮っ……!?」

十兵衛「……」

悠「師匠っ……!?」

そんな……どうして師匠が、雪那の味方を……?

十兵衛「久しぶりだな、小鳥遊。他のみんなも息災なようで何よりだ」

悠「どうして、師匠がそこに居るんですか?執行部の中で忙しくしているのでは……」

十兵衛「私がいつそんなことを言った?見ての通り今の私は由比先生の用心棒さ。よって、それを守るのは私の責務といえるな……はぁああっ!」

伊都「くぅう!」

大神はなんとか師匠の剣を受け止めたものの、表情を強く歪めて飛び退る。

あんな顔を見せたのははじめてじゃないか……?

雪那「さすが、頼りになりますね」

十兵衛「これでも剣術指南役だからな」

悠「どうしてだ!アンタはそんなつまらない反乱なんかに手を貸す人じゃないはずだ!」

十兵衛「小鳥遊、なにか勘違いをしているようだが、私は徳河に忠誠を誓った覚えなどない」

悠「けどそいつは、口では綺麗ごとを言いながら暴力を手段とするくわせ者だ!」

十兵衛「そんなことは百も承知だ。だが、そうやって自分の手で覇権を掴もうとする姿には、浪漫を感じるじゃないか」

悠「ロマン……だって」

雪那「……まぁあなたが力を貸してくれるのであれば、どんな理由であろうが構いませんがね」

本気なのか……師匠は。

想「信じがたいことですが、これを事実として受け入れなければならないようです。彼女も想定に入れて、戦術の組み直しを……」

雪那「やらせません。ヨリノブ!」

ヨリノブ『ジャァァア!!』

伊都「柳宮っ……くっ、邪魔をするなっ……!」

吉音「こ、これじゃ雪那さんに近づけないよっ……!」

ヨリノブを押しきるには手数が足りない。

かといってかいくぐって由比本人を狙っても、そこには十兵衛が護衛に付いている。

まずい……手詰まりに近くなってきた。

想「撤回!撤退します!どのルートを使っても構いません、とにかく迅速な退却をお願いします!」

奇襲で最も留意しなければならないのが、退路の確保だ。

本来ならば速やかに由比を討てなかったことで、この作戦は失敗している。完全に逃げ場を失う前に、なんとか逃げなくては……。

桃子「よし!この奇襲は失敗だ!逃げるぞ!」

伊都「ちょっ……わたくしはまだっ!」

想「では、あなた個人のご意思に任せます。ここで私たち全員がやられてしまうわけにはいかないので」

伊都「く……あぁもうっ!」

大神も、不機嫌さを顕にしながらも身を翻した。

悠「はははははっ!本当に口ばかりのひとたちですね。しかし私には確かな力があります。これからそれを、あなたたちだけでなく、学園中に思い知らせましょう!」

後ろから由比の声が追いかけてくる。おれは撤退する足を止め振り返る。

悠「っ……」

想「小鳥遊くん、なにを?!」

悠「寅、一瞬でいいヨリノブの注意を引けるか?」

寅「あ?……可能性は半々。それに一瞬だけなら」

悠「おれが合図したら頼む……逢岡さん、すいません。おれ個人の判断で……十兵衛を討ちに行きます。きっと、少しくらいは時間が稼げるんで逃げて切ってください。」

吉音「悠!無理だよ!逃げよう。」

悠「無理とわかってても一矢報いなきゃならないときもあるんだよ……寅!」

寅「ちっ……言っとくが俺はお前に着き合わないし、迎えはない。片道切符だ!!」

おれと寅が反旗を翻して前に出る。
38/100ページ
スキ