ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:南町奉行所前ー

想「警戒していて正解でしたね。徳河さんの性格を考えると、もっと堂々正面から乗り込んできそうでしたし。」

吉音「そうだ、詠美ちゃんは?一緒だったんだよね?ってゆーか悠もどこ行ってたの?」

悠「ああ、地面に空いた穴に落ちたら地下道につながってた。そこが崩れてふさがったお陰で、追っ手から逃げられたのは良かったな。なんとか出口を探して、徳河さんは体力の限界みたいだったから、かなうさんのところに預けてきたよ」

吉音「じゃあ詠美ちゃんも無事だったんだね」

悠「とりあえずはな」

吉音「じゃあお見舞いに行こうかな。それまでいるかわからないけど」

病気の件は言わない方がいいだろう……。単純にん本人がいないところでどうこういうのも失礼な気がするし。

悠「そういうわけで穴がぽっかり空いてるところがあるから、ひとが近付かないようにしておいた方がいいと思う」

朱金「OK。そのへんも調べさせておくぜ。しっかし由比のヤツも薄っぺらい野郎だぜ。デカい口叩いておきながらつまんねー策略弄しやがって。ハ!大義ある革命が聞いて呆れるぜ!」

想「手下を市政に忍ばせ、一斉に武力で蜂起するという手口から、そもそもフェアな訴えではありません。その理想はともかく、彼女自身を退場させるのには、なんの呵責もありませんね。」

吉音「……うん。せっかく嬉しかったのに、卑怯だよ。許せない」

これまで戦いに乗り気でなかった吉音まで、戦意を高めてきている。

徳河さんの名前を利用されたことに腹を立てているのか。徳河さんもいっていたな……戻ったら由比さんに反撃を仕掛けるって。

朱金「暴動が起きてから対処してたんじゃダメだ、こっちから攻め込まねーといつまで経っても終わらねぇ」

想「何が学園に対して良くなることなのか、少し考えればわかりそうなものですけどね……」

ただそうは言っても、現状由比の勢いに押されている面は否めない。

勝った方が正義とばかりに、これも必要な手段だったと訴えてくるのは目に見えている。

多くの一般生徒は、目先の自分の生活を護るだけで精いっぱいなんだ。おれだって逢岡さんらが気をかけてくれなかったらどうなっているのかわからない。

この件には戦い以外の面で考えなければならないことが多くありそうだ……。



ー大江戸学園:南町奉行所ー

悠「襲ってくるところを撃退しているだけでは何の解決にもならない。事実徐々に押しこまれてきている。ここはやっぱり、由比雪那本人を、直接討ち取りに行くべきだと思う」

その門下生の結束が固く、強い意志を持っていたとしても、それは由比がいての話。

頭を失えば即座に烏合の衆と化すだろう。

想「それは重々承知しているのですが、なかなか上手く条件がそろわなくて」

逢岡さんは渋い表情で唸った。

最近の逢岡さんは、たびたび苦悩の表情を露わにするようになっている。

それだけ余裕を失わせる、由比は強力な敵だってことだろう。

悠「……」

想「小鳥遊くんも知っての通り、こちらの足並みはそろうどころか乱れが増していくばかりです。由比さんの本陣には酉居さんが何度も単独で攻撃を仕掛けては、はじき返されています。火盗はその鳥居さんの欲しいままにされているし、遠山さんは執行部との対立もあって、非協力です。このように連携のれの字もないような状況では、本陣を急襲するにもなかなか……」

さすがに本陣の防備は厚いし、簡単に打ち破れるようなら既に酉居がカタつけているだろう。

逢岡さんは、イチからジュウまで理論的に、襲撃の困難さを説明してくれた。

悠「……」

想「なにか奇策でもあればいいのですが」

悠「奇策か……少人数でも気づかれずに本陣に行く方法とか?いっそのこと暗殺みたいな……。あ、そうか。猫目ならそういう事に詳しいかもしれませんね」

なにしろ侵入のプロなんだから。
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