ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー大江戸学園:地下道ー

悠「徳河さんの信念はよくわかりました。でもそれで倒れちゃすべては水泡に帰しますよ。体調が悪いときとか、手が足りないときには遠慮なくみんなの力を借りてください。きっとその方がみんなとの距離が縮まりますし、信頼もしてくれると思います」

詠美「そうかしら……不甲斐ないと思われるのではない?」

悠「少なくともおれは頼られると嬉しいですよ。こんなふうに密着することもできますし。役得ですよね。」

詠美「もう……ああ、本当にあなたに恥ずかしいところばかりを見られているわ。私は完全無欠の鉄の女だったはずなのに」

悠「……降ろした方がいいですか?」

詠美「……意地悪」

悠「大丈夫ですよ。ここから出て、養生所までお届けしたら、全部忘れますから」

詠美「……忘れなくてもいいわよ」

悠「えっ……」

詠美「あなたを頼っているのは事実だし、なかったことにしてとは言わないわ。それに、ここは私とあなただけしかいないもの」

悠「……その言葉の方が忘れそうにありませんよ」

詠美「きっと心まで弱っているのね。こんなことまで口走ってしまうなんて、今だけだから。無事に戻れたら、今度はこちらが由比さんに攻勢をかける番。それまで少しの間だけ、休むことを許して頂戴……」



ーかなうの養生所ー

こんこん!

かなう「なんだなんだこんなよなかに、ちょっと待ってろー」

悠「かなうさん、すみませんこんな時間に」

かなう「悠か、気にするな。ここを何処だと思ってる……で、お前の背負ってるのは誰だ」

悠「徳河詠美さんだ。ちょっと寝かせてもらっていいですか?」

地下道をさまよい、なんとか出口を発見したのはいいものの、徳河さんはまた限界がきてしまったらしい。

ぐったりと眠ってしまったようで、声をかけても目を覚まさなかった。呼吸は自然な感じなので、最悪のことはないと思う。

かなう「本当に本人なのか……まぁ誰でもそっちが優先だな。すぐに準備する」

かなうさんも驚いたようだけど、徳河さんの様子を見てすぐに切り替えてくれた。敷かれた布団の上に徳河さんの身体を横たえ、ようやく僅かながら一息。

悠「ふー……」

かなう「聞きたいことは色々あるが……徳河はどうしたんだ?」

悠「多分過労みたいなものだと思う。走ってる途中で倒れた」

かなう「わかった。お前は出ていけ」

悠「ええ!?どうしてですか!」

かなう「診察するからに決まってるだろ!終わったら呼んでやるからそっちで待ってろ!」

悠「ああ……いや、でもここはおれも立ち会っ……はい、向こうでいます……」

仕方なく背負われついでに、診察時も観察をご一緒してもいいと思ったが……残念。

まぁ、大事でなければいいけど……。

かなう「よし悠、こっちに来ていいぞ」

かなうさん(とヤクロウ)による診察が終わったらしい。ようやくお声がかかった。

悠「お疲れカツカレー大盛り。」

かなう「あん?」

悠「いえ、徳河さんの様子はどうでしょうか?」

徳河さんは以前眠り続けているけれど、顔色は良くなった、ように見える。

かなう「その前に、どうしてお前が徳河をここに連れてくることになったか、話せ」

悠「ああ、えーと、多分由比雪那だと思うんだが、罠にはめられて。ものすごい大軍団の中を逃げ回っているうち、他のメンバーとははぐれて二人きりになったんだ」

悠「その時からどうも徳河さんの体調がおかしくなったみたいで」

かなう「敵と味方、それぞれ何人くらいだ」

悠「こっちは最初は四人だった。敵は、囲まれてたし、移動もしてたみたいなんではっきりとはわからないけど……まぁ百人くらい?」

体感的にはもっと多かったけど、正確なところは分からない。
28/100ページ
スキ