ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】
ー大江戸学園:地下道ー
詠美「重くはない?」
悠「これでも男ですからね。誰を背負ったとしても、そんなことは口にできません。」
詠美「なんだかはぐらかされた気がするわ……」
悠「じゃあ、本音を言うと軽い……軽すぎ。もっと喰って肉つけないと貧血でぶっ倒れますよ?」
詠美「それはそれで失礼ね……」
はぁ、と耳元での吐息に……いかんいかん。おれこそ今がどういう状況かわかってるのか?
悠「どっか、身体が痛むところとかありませんか?」
詠美「ん……特にないわ。あの戦いと転落でよく怪我をしなかったものね。さすがに強い疲労は感じるけれど」
悠「それはおれもですよ。あれだけの立ち回りだったし、仕方ない仕方ない。」
詠美「でも、アナタこそよく素手で闘えるわね。」
悠「むしろ、刀握ってたらやられてたってだけですよ……よし、じゃ歩きますよ。しばらく我慢してください」
詠美「えぇ…。」
おれは徳河さんを背負い、出口を探して地下道を進み始めた。
そうしてしばらく歩いたのだが。
悠「う~ん、似たような景色ばっかりでよくわからないな……」
詠美「……」
どこまでも続く無骨なてっぺきとパイプ。聞こえるのは自分の足音ばかり。
あの広い学園島を、文字通り縁の下から支えている施設。地下も地上と同じだけの規模があると考えると、気が遠くなりそうだ。
悠「ま、これだけ道が続いてるんだし、いつかはどこかに着くだろ」
詠美「……ありがとう、励ましてくれて」
悠「え、いや……」
歩きはじめ時から、徳河さんはずっとおれの背中で大人しくしてくれている。言葉からもひとを遠ざけるような冷厳がなりを潜め、素直な温かさを感じる。
徳河さんは、身分を取り払えばしたしみやすく柔和なひとなのかもしれない。
詠美「きっと私も……吉音さんから手紙が来て、舞い上がっていたのね」
悠「……」
落ち着いてきたせいだろうか。徳河さんがポツポツと話しはじめた。
詠美「長谷河さんからは、手紙には不審な点があるといわれたのに、聞き入れなかったのは私。結果的に長谷河さんのいうことは正しく、同行してもらったのも正解だったということね」
悠「こっちも似たようなもんすよ。吉音は手紙が来たって喜んで、最初っから疑う事なんて考えてませんでしたね」
詠美「私は、別に吉音さん自身を憎でいるわけではないの。それでも私は徳河の娘として、彼女を認めるわけにはいかないのよ」
悠「どうして?」
詠美「徳河家には学園のみなを導くという使命があるの。それだけの期待をかけられているの。なのに吉音さんは身分を隠して、一用心棒として気ままな生活をしているわ……自分がどれだけ目をかけられていたのかも忘れて」
吉音から少し聞いたことがある、昔、一緒にお屋敷で暮らしていた頃のことだろうか。
家督の相続権は、第一位が吉音、詠美さんはその次らしい。吉音が本来の責務を放棄していることが、徳河さんには許せないようだ。
悠「徳河というお家柄でなければ……ですか」
詠美「……そうね。もしそうだったら、私も彼女のようにふるまって……今でも親密な関係だったかもしれない。でも生まれは取り消せないの。私たちは徳河家に生まれたの。あの子のしていることは、徳河にとっても、私にとっても裏切りなのよ」
前にも似たような事を気がする。おれはまぁ一応何だかんだで小鳥遊家でいえば相続権第一位であるけど……生まれだって取り消そうと思えば取り消せるし、自分が望んだ道にしか進む気はない。
それにもし、徳河さん自身が望んで進んでいることだったとしても、
悠「それってひとりだけでやらなきゃいけないことなのか?おれには徳河さんが無理にひとりで背負いこんでいるように見えるぞ。」
詠美「別に、無理なんてしていないわ。私は私にやれることをしているだけよ」
悠「でも今日は、ひとりではどうにもできなかった」
詠美「それは……!それは、そうね。そのとおりだわ……ふふっ」
悠「……」
徳河さんは一瞬声を荒げかけたが、それはすぐに自虐的な微笑みに変わった。
詠美「でも私はやれるだけを見せたいの。徳河の名前の力じゃない、私がやれるってことを」
貧しい家庭出身だとコンプレックスを持っている人は多くいた。でも徳河さんは、逆に名門の家がらのせいで、他人が信じられなくなっているのか。
詠美「重くはない?」
悠「これでも男ですからね。誰を背負ったとしても、そんなことは口にできません。」
詠美「なんだかはぐらかされた気がするわ……」
悠「じゃあ、本音を言うと軽い……軽すぎ。もっと喰って肉つけないと貧血でぶっ倒れますよ?」
詠美「それはそれで失礼ね……」
はぁ、と耳元での吐息に……いかんいかん。おれこそ今がどういう状況かわかってるのか?
悠「どっか、身体が痛むところとかありませんか?」
詠美「ん……特にないわ。あの戦いと転落でよく怪我をしなかったものね。さすがに強い疲労は感じるけれど」
悠「それはおれもですよ。あれだけの立ち回りだったし、仕方ない仕方ない。」
詠美「でも、アナタこそよく素手で闘えるわね。」
悠「むしろ、刀握ってたらやられてたってだけですよ……よし、じゃ歩きますよ。しばらく我慢してください」
詠美「えぇ…。」
おれは徳河さんを背負い、出口を探して地下道を進み始めた。
そうしてしばらく歩いたのだが。
悠「う~ん、似たような景色ばっかりでよくわからないな……」
詠美「……」
どこまでも続く無骨なてっぺきとパイプ。聞こえるのは自分の足音ばかり。
あの広い学園島を、文字通り縁の下から支えている施設。地下も地上と同じだけの規模があると考えると、気が遠くなりそうだ。
悠「ま、これだけ道が続いてるんだし、いつかはどこかに着くだろ」
詠美「……ありがとう、励ましてくれて」
悠「え、いや……」
歩きはじめ時から、徳河さんはずっとおれの背中で大人しくしてくれている。言葉からもひとを遠ざけるような冷厳がなりを潜め、素直な温かさを感じる。
徳河さんは、身分を取り払えばしたしみやすく柔和なひとなのかもしれない。
詠美「きっと私も……吉音さんから手紙が来て、舞い上がっていたのね」
悠「……」
落ち着いてきたせいだろうか。徳河さんがポツポツと話しはじめた。
詠美「長谷河さんからは、手紙には不審な点があるといわれたのに、聞き入れなかったのは私。結果的に長谷河さんのいうことは正しく、同行してもらったのも正解だったということね」
悠「こっちも似たようなもんすよ。吉音は手紙が来たって喜んで、最初っから疑う事なんて考えてませんでしたね」
詠美「私は、別に吉音さん自身を憎でいるわけではないの。それでも私は徳河の娘として、彼女を認めるわけにはいかないのよ」
悠「どうして?」
詠美「徳河家には学園のみなを導くという使命があるの。それだけの期待をかけられているの。なのに吉音さんは身分を隠して、一用心棒として気ままな生活をしているわ……自分がどれだけ目をかけられていたのかも忘れて」
吉音から少し聞いたことがある、昔、一緒にお屋敷で暮らしていた頃のことだろうか。
家督の相続権は、第一位が吉音、詠美さんはその次らしい。吉音が本来の責務を放棄していることが、徳河さんには許せないようだ。
悠「徳河というお家柄でなければ……ですか」
詠美「……そうね。もしそうだったら、私も彼女のようにふるまって……今でも親密な関係だったかもしれない。でも生まれは取り消せないの。私たちは徳河家に生まれたの。あの子のしていることは、徳河にとっても、私にとっても裏切りなのよ」
前にも似たような事を気がする。おれはまぁ一応何だかんだで小鳥遊家でいえば相続権第一位であるけど……生まれだって取り消そうと思えば取り消せるし、自分が望んだ道にしか進む気はない。
それにもし、徳河さん自身が望んで進んでいることだったとしても、
悠「それってひとりだけでやらなきゃいけないことなのか?おれには徳河さんが無理にひとりで背負いこんでいるように見えるぞ。」
詠美「別に、無理なんてしていないわ。私は私にやれることをしているだけよ」
悠「でも今日は、ひとりではどうにもできなかった」
詠美「それは……!それは、そうね。そのとおりだわ……ふふっ」
悠「……」
徳河さんは一瞬声を荒げかけたが、それはすぐに自虐的な微笑みに変わった。
詠美「でも私はやれるだけを見せたいの。徳河の名前の力じゃない、私がやれるってことを」
貧しい家庭出身だとコンプレックスを持っている人は多くいた。でも徳河さんは、逆に名門の家がらのせいで、他人が信じられなくなっているのか。