ｰ大江戸学園:日本橋ｰ

平良「こっちは追い払ったみたいだな。援護は必要なかったか。」

悠「鬼平、そっちはどうだった?」

平良「もちろん防衛を果たしたさ。しかし減らされた手せいではそれで精いっぱいだったな。」

悠「減らされた?」

平良「酉居のヤツが火盗の大部分を私物化している。にもかかわらず、今日もまた負けたようだ。どうもあいつはメンツにこだわり過ぎというか、正面から以外の闘いを考えようともしないからな」

想像がつく。卑賤相手に小細工などみっともない!とか。

桃子「正面からも悪くないだろ。一気に押し切っちまえばいいんだよ」

平良「腐っても火盗だ。由比以外が相手ならば、それでも通用しただろうが…………酉居に従わされている隊員の、士気があまり上がってないのも問題だな」

桃子「……そいつは、どうしようもねぇな」

僅かずつではあるが、戦況は由比側の有利に進んでいる。

同時に上層部の生徒の不満と、由比への帰服が増してきた。

理由には掲げる理念への賛同の他に、単に勢いを恐れて、というものあるのだろうけど。

悠「長引けば長引くほど、由比に有利な戦況になっていく。速やかな解決策を出さないとな。由比本人を討ち取るのがもっとも手っ取り早いと分かってはいるが、守りは厚いしな……」

吉音「う～ん。何かいい手が有ればいいのにねぇ｣



ｰ???ｰ

ここまでは順調……か。

自らは潜伏しつつ学園に混乱を呼び、それに乗じて一気に勢力を広げる。

町方らの対応は後手に回り、ここまでは雪那の想定通りに事は運んでいた。

プライドばかり高く、視野狭窄に陥っている酉居を駆逐することはたやすい。かねてより幕府との折り合いが悪い北町の遠山は、戦う事に消極的。

南町は抵抗しているものの、手駒の少なさゆえにこちらの優位は変わらない。

雪那「となれば、もっと警戒すべきはやはり火盗……そして徳河詠美ですか」

火盗は最初から暴徒を相手にするよう訓練され、組織されている。ひとり一人が兵士。

そして詠美はいわずと知れた徳河家。その文武に渡る才能は誰もが認めるところ。

いくら幕府を攻め立てたところで、彼女を屈服させなければ、真の勝利は訪れない。

かといって今正面から挑んだところで、押し切れるという保証はない……正攻法以外で、なんとか彼女に退場願わなければ。




ｰ大江戸学園:南町奉行所ｰ

吉音「ねぇねぇ、詠美ちゃんから手紙が来たんだよ!」

吉音がはしゃいだ様子で飛び込んできたのは、南町奉行所での作戦会議中だった。

想「それは珍しいですね。何かいいことでも書いて有りましたか?」

吉音「うん!学園のために協力していきたいから、まずはお話ししようってさ。ご飯でも食べながらでもって!いいことだよねぇ!」

そういって笑いながら、徳河詠美さんからだという手紙を差し出してくる。

悠「読んでいいのか?」

吉音「うん。いいよー。悠も一緒に行こうよ～」

悠「んー、ちょっと待ってな」

想「失礼ですが、私にも拝見させてください」

逢岡さんもなにか感じるところがあったのか、おれの横から手元を覗きこんでくる。

悠「……」

想「ふむ……至極まっとうな内容ですね。」

吉音「えへへ。詠美ちゃんから来たんだよ～♪」

手紙に書かれていたことを要約すれば、由比を成敗するためにはバラバラではいけない。

連携を強化したいから、その前に一度顔を合わせて話をしたい。という内容だった。