ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【9】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

吉音「悠!大変なの!って……アレ?飛鳥先生?」

鼎「こ、こんばんは、徳田さん」

吉音「あ、うん……こんばんは。えっと……どうして飛鳥先生がいるの?」

悠「それはともかく、急ぎの用事なんじゃないのか?」

吉音「そうだった!また幕府の施設が襲われてるの!」

吉音の言葉に気分は一気に覚め、瞬時に意識が切り替わる。

悠「場所は!」

吉音「口で言うより走った方が早いよ!ついてきて!」

言い終わる前に部屋を飛び出していく吉音。

おれも慌ててその後ろに続こうとする。

鼎「小鳥遊さん……よろしくお願いします。」

顔だけ振り返って部屋の中を見ると、先生が深く頭を下げているところだった。

悠「がってん!」

悠と吉音の足音がすっかり聞こえなくなると、鼎はおもむろに頭をあげた。

二人が出ていったばかりの扉をじっと見つめる。

鼎「あとちょっとだったんですけどねぇ……」




ー大江戸学園:日本橋ー

吉音「ぇやぁーっ!」

ヒュッ……ズバッ!
由比軍男子A「ぐはっ!」

桃子「オラオラくらえぇぇーっ!」

タマ『プギィーッ!』

由比軍男子B「うわぁぁあ!」

吉音と鬼島の、大振りで派手な攻撃。直撃を受けた敵は、近くの同胞を巻きこんで吹きとんでいく。

由比さん……いや、由比の軍はほとんどが一般生徒であり、剣徒はごく僅かでしかない。

このふたりを止められるような敵はおらず、まさに鬼神の如き強さを発揮していた。

乙級男子A「く……なんて強さなんだ。こんな奴が本当にいるのか」

桃子「頭ばっかで勝てると思うんじゃねぇ!実戦は違うんだよ!」

鬼島の威勢の良いタンカに、由比軍がそれははっきりとわかるほどにおののいた。

乙級男子A「つっ、調子に乗るなよ!ひとりふたり強かったところでなんだ!他のところじゃこっちの方が勝ってる!戦術と戦略をはき違えるな!」

悠「典型的な負け犬の遠吠えだな。由比雪那にそういわれたのか?」

乙級男子A「……お前たちなんかで、雪那先生の相手ができるわけない。」

悠「顔を見せて来なきゃ相手にも出来ない。」

乙級男子A「ふん、退却!退却だ!」

リーダーらしき生徒の号令でね由比軍は整然と引きあげていった。

おれの挑発にも釣られない、鮮やかな引き際だった。

悠「ふむ……見事なもんだな。年下ばかりとは言え、由比には少なくとも、奴らの信頼を得るだけのものはあるんだろうな」

吉音「ふぅ……よかったぁ、すぐに闘いが終わって」

悠「あー?吉音には楽勝だったんじゃないのか?」

吉音「でもあんなちっちゃい子たちと闘うのは嫌だよ」

由比軍は、その門下生、すなわち乙級の子たちが中核になっているらしい。

単純に下級生を本気で相手にしなきゃならないというのは、どうしても気が引けるものだ。

桃子「でもあっちだって本気で向かってくる敵なんだから、手を抜くわけにはいかねぇだろ」

鬼島がおれの内心を代弁してくれた。

由比のことだ、その辺りも計算しての編成かもしれない。

う~ん、頭のいい奴は、敵に回すと何でも疑ってしまいたくなるな。
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