ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:船着き場ー

伊都「んー、そうねぇ。いきなり犬はハードル高過ぎだったかしら……」

悠「あたりまえだ!」

久秀「もう充分、駄犬でしょ」

悠「だれが駄犬じゃい!」

伊都「じゃあいいですわ、キスで妥協してあげましょう」

悠「あー……それくらいなら、ま、まぁ……」

久秀「足にかしら」

悠「お前は横入れやめれ!」

……うん、犬は論外だけど、それに比べたらキスするくらいなら……。

それに、この場を切り抜けられるだけじゃなく、今後も五人組と関わらないよう約束させられるわけだし……。

長々と考えている時間はない。おれは決心を固めると、大神を見据えて頷いた。

伊都「はい?」

悠「するよ」

伊都「するって、なにをです?」

悠「だから……キ、キスを……」

伊都「え、なぁに?よく聞こえなぁい」

悠「……キスします!!」

吉音「わっ、悠ってば、だいた~んっ」

横からあがった吉音の黄色い声を無視して、おれは大神に近づいていく。

キスなんて、さっさとやって、さっさと終わらせればいいんだ!

伊都「んふふふぅ……わたくしは、いつでも準備オーケィよぉ」

大神は瞼を半分伏せた上目づかいでおれを見上げ、唇からちろりと舌先を覗かせる。

……気を抜いたら本当に食べられそうで怖い……。

悠「それじゃあ……いただきます」

伊都「はい、あ~ん」

おれは、なぜか唇を半開きにして待っている大神の両肩に手を置くと、勇気を奮い起して顔を寄せていく。

周りの視線が痛い、ものすごく痛い。ものすごくすごくすごく……恥ずかしい!

悠「……」

伊都「ん~!」

おれはぎゅっと固く目を瞑って……大神の頬に唇でちょんと触れた。

悠「はい、しました!終わり!」

伊都「ええ~っ、ほっぺたぁ!?」

海老反りになる勢いで顔を遠ざけたおれに、大神はふくれっ面を向けてくる。

そんな顔されたって、絆されたりしないぞ!

悠「どこにキスするか決めてなかったんだから、これで終わりだ!」

伊都「むぅ、イケズなんだからぁ…」

悠「イケて欲しかったらちゃんと口説いてみてください。」

伊都「あらぁ、いうじゃない。まあいいわ、あんまりごねると袋叩きにされそうだし、これで納得してあげるわ」

大神は、にぃっと凄みのある笑みを浮かべると、両足で大きく地を蹴った。

次の瞬間、大神の小柄な身体は、おれの頭上を高々と跳びこえていた。

彼女の剣魂のダイゴローの能力によって大きく突起した地面が、ロイター板の代わりになったのだ。

……というか、あんな短いスカートで頭上を跳びこえられたら……。

伊都「……ユッくんのむっつり」

悠「失礼な!おれはフルオープンだし!というかむしろ、みせてるだろ!!」

伊都「でも大丈夫、今夜は勝負仕様だもん☆」

悠「ぱんつの話しか!」

伊都「ぱんつの話」

なんだろう、少し和んでしまった。
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