ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:船着き場ー

寅「オラァっ!」

悠「くっ……!」

細かな打撃に大振りな蹴りを混ぜてくる。スタンダードなくせに高い威力と隙のないコンボ。

何とか両拳を掴んでとりあえずの動きを止めたが完全に押し負けつつあるおれ。そんな状態に割りこんできたのはすぶ濡れて戦闘不能になったはずの久秀だった。

掴みあってる最中にも関わらずソッと寅の背中に触れたのだ。

寅「あん?!」

久秀「こんな真夜中に濡らしてくれてありがとう。お礼に……温めてあげるわ。」

次の瞬間、カッと閃光が走り破裂音とともに寅の背が爆ぜた。

寅「ぐあっ?!なっ、ぐあぁぁぁ!」

今までに久秀が仕掛けてきた爆発に比べては小規模な爆発ではあったが寅の背中から火があがり段々と全身を炎が包みだした。

いくらの寅といえど炎に包まれたのは不味かったらしい。おれを突き飛ばして海へと飛び込んだ。

久秀「……リトルフラワー(一握りの火薬)よ」

悠「それ……ゲンスルーの技じゃん。っか、お前……手平気なのか?あと火薬は?」

久秀「ええ、耐熱グローブ着けてあるし。そもそも久秀の火薬ホルダーは完全防水なのよ。火薬扇だけを封じただけじゃ不完全すぎるのよ。まぁ、気分は最悪だから焼いてあげたわ。虎の焼き肉なんてレアよ。あーっはっはっはっはっ!!あらあら、そういえばついでに濡らされた仕返しもできちゃったわぁ。」

あ、やべぇ……めっちゃ怖い。

伊都「あら……とらちーくんにしおんちゃんってば、負けちゃったのぉ!?」

想「そのようですね……どうです、大神さん。この辺りで手打ちにするというのは」

伊都「あらあらぁ?お奉行閣下が違反生徒に取引要求?」

想「最優先は、この船を押さえることです。そのためなら、多少のことには目をつぶりましょう」

伊都「……ふぅん、見逃してくれるってわけ。条件次第では考えてあげなくもないわ。」

想「条件?」

伊都「ちょっと、ユッくん」

悠「あ?おれ……?」

寅「プハッ……くそっ!引きあげるならちゃんと引きあげろ!」

居た堪れなくなって寅を引っ張り上げてやってるところへ、唐突に話しを振られて、思わず寅を落してしまった。

側にいた吉音や鬼島さんも、怪訝な顔をおれに向けてくる。

悠「え、えと……なんでしょうか……?」

伊都「あなた、わたくしの犬になりなさい」

桃子「はあぁ!?犬って、おまえ……悠をお供にするってことか?」

まったくもって意味のわからない大神さんの要求に、鬼島さんが腹の底から声を張り上げる。

伊都「んー……概ねあってるわね、驚くことに」

桃子「どうして驚くんだよ!ってか、悠がそんな馬鹿な要求を飲むわけ無いだろ!」

伊都「だそうだけど、ユッくん?」

悠「いやいやいやいや……」

鬼島さんと大神の視線が、前と横から、おれの顔に突き刺さる。

吉音「ねえねえ、悠。どうするの?わくわくっ」

……ついでに、鬼島さんの反対側からも、吉音の興味津々な視線が頬に当たっている。

な、なんなんだ……この状況は……!?犬になんて、なれるわけがないじゃないか!

寅「アホだなコイツら……はぁ。やる気が失せた」

久秀「久秀の犬でもあるのだけどねぇ。」

伊都「あら、ひーちゃん。それじゃあ、大まけにまけて一週間のうち四日のの犬でいいわ。ということでイエスといってくれるなら、もう五人組の用心棒はしないって約束してあげてもいいわよん。」

想「小鳥遊くん、ここはイエスでお願いします」

悠「逢岡さん?!っか、久秀の犬でもねぇ!!」

想「いまは一刻を争う事態です!どうかここは、大人の判断で犬になってください!」

悠「そんな大人になりたくないですって!」

寅「大してかわりねぇだろ。」

悠「全然ちがわい!!」
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