ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:船着き場ー

悠「こっの……!」

両足に力を込めて、上半身をやや前倒しにしつつ両腕を一気にひらいて、寅の両拳をはじき返した。

寅「遅ぇ!!」

次の瞬間おれのわき腹に寅の足のつま先が突き刺さった。

悠「ぐえっ?!」

寅「どうした!全然トロイんだよ!」

悠「こッの……マジで邪魔だ!」

次の打撃が繰り出されるのに合わせてこっちも拳を打つ。しかし、向かって来ていたはずの寅はバックステップで避けた。おれの拳は空をきる。

寅「ちっ、直撃決めたのにノーモーションで合わせて来てんじゃねーよ」

悠「テメェこそ、その反射神経異常だろニュータイプか!」

っか、まともに寅とやり合ってたら朝になる。どうにか活路を開かないと……。

桃子「くそっ、ぬるぬる逃げやがって!テメェはウナギかっ!?」

シオン「柳なり流水なり、他に例えがあるだろ。馬鹿が」

桃子「うるせぇ!!」

シオン「おっと、また空振りだ。それじゃあ蠅も追えないぞ」

桃子「うるせぇ、うるせぇ!!てめえだって逃げてばっかじゃねぇか!!蠅も追えないのは、てめえも同じだ!!」

シオン「……いいだろう。その挑発、乗ってやる」

シオンの声から温度が消える。ずっとだらしなく下げられたままだった刀の切っ先が、ゆらりと持ちあがる。

……輪月殺法!

悠「鬼島さん、気をつけて!」

寅「他人の心配してんじゃねぇ!」

おれには、猛獣の如く攻めてくる寅を押さえつつ、叫ぶ事しかできない。っか、むしろおれが助けてほしい!

桃子「いわれなくても分かってる……けど、隙だらけにしか見えないんだよなぁ」

シオン「そう思うのなら、かかってこいよ」

桃子「ああ、そうさせて貰う……っぜ!!」

シオンの輪月殺法に、鬼島さんは体当たりするように全身で切りかかる。

脇目に見えているだけでも震えがきそうな打ちこみも、だけど、輪月殺法にはかなわない。

……そう思っていた。

金属と金属のぶつかり合う音がした直後、立っているのはただひとり、鬼島さんのほうだった。

シオン「……なっ……なぜ、だ……」

剣と諸共に弾き飛ばされたシオンが、倒れ伏したまま呻く。

桃子「前も思ったけれど、その構え、あたいには隙だらけにしか見えないんだよなぁ……なんでかね?」

シオン「くっ……っ……だから、馬鹿は嫌い、なんだ……っ」

その呻きが最後の力だったらしく、シオンはがくりと気絶した。

それに応じて、リュウノスケの姿もかき消える。リュウノスケが居なくなったことで、吉音はやっと鬼島さんに駆けよることができた。

吉音「モココちゃん、すごい!」

桃子「いやぁ、そんな大したことじゃないって。なんかこう隙だらけだったから、楽勝だったつーかさぁ」

必殺と名高い輪月殺法を破っておいて、楽勝だった、なんて……あの人はどこまで強いんだ?

寅「眠利は終わったか……」

悠「お前も引いてくれたら嬉しいんだけど」

寅「関係ないだろ。眠利もいってたかず、俺には船も他のヤツも関係ない。ただ、テメェと殴り合うだけだ!」

悠「性質が悪いんだよ!」

鬼島さんのシオン被害の気持ちが分かった気がした。ただ、鬼島さんとおれで違うのは相手を倒せるのと倒せない差だろう……。
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