ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:船着き場ー

想「む、船のハッチが開きましたよ」

逢岡さんの声がいっそう緊迫する。

深夜の港に入港した船は係留を終えて、いよいよ積荷の搬出作業が始まろうとしていた。

悠「……」

張り詰めた静けさに、咽が悲鳴を上げそうだ。

想「……いきます、突入!」

「「「「「おおぉー!」」」」

逢岡さんの号令一下、港を密かに取り囲んでいた町方全員が、大声をあげて突撃開始した。

吉音「とりゃあ~っ!!」

用心棒A「ぐはぁ!!」

桃子「どぉらあっ!!」

用心棒B「ぎゃああ~っ!!」

吉音の剣が閃き、鬼島さんの金棒が吠える。

そのたび、貨物船を守るために雇われた用心棒たちの垣根が崩れていく。

往水「わ、おわわっ、アタシは無害ですってば~!」

想「仲村さん、下がって!」

十手を片手に逃げ惑っているだけのひとも、約一名ほどいるけど、状況はおれたちの優勢だった。

悠「……よし」

この分なら、港の管理施設を制圧しに向かった別動隊も、いまごろ首尾よく行っていることだろう。そんなふうに、おれが口元を緩ませた瞬間だった。

想「むっ!?」

タラップを駆けあがって船内に乗り込もうとしていた逢岡さんが、咄嗟に大きく跳び退る。

直後、跳び退った逢岡さんの鼻先寸前を、袈裟懸けの一撃が切り裂いた。

伊都「きゃっは、避けられた!」

想「大神さん……あなたも五人組に雇われていたのですか」

伊都「んまっ、そゆことね。ただ突っ立ってるだけの簡単なお仕事だって聞いてたんだけど……うっふふふ!」

想「……立っているだけでいいと思いますよ、私も」

伊都「あら、御冗談。壁の花してるのも退屈していたとこなの。ダンスのお誘い断っちゃ嫌ぁよ!」

想「ち……ッ!」

大神が出てきて逢岡さんと切り結び始めた途端、町方製の勢いが止まってしまった。

それに反して、押されていた雇われ用心棒たちは息を吹き返し、町方の生徒たちを押しかえしはじめる。

悠「うーむ……これはちょっと不味いかもな……」

桃子「大丈夫!あたいがなんとかしてやらぁ!!」

いうなり、鬼島さんは頭上で大きく金棒を振るうと、用心棒たちの群れに突っ込んでいく。

悠「おー」

桃子「どおりゃ~ッ!!吹っ飛ばされて養生所に直行したい奴ぁ、まとめて前に出てこぉい!」

シオン「鬼島桃子、見つけたぁ……!」

桃子「うわぁ、出たぁっ!!」

鬼島さんの豪快な雄叫びに応えて進みでてきたのは、見間違いようもなく、眠利シオンだった。

想「む、むっ……五人組は、眠利さんまで抱きこんでいたのですか……!」

伊都「あらぁ、しおんちゃん。あなたは港の守りが担当じゃなかったかしらぁ?」

シオン「そんなこと……桃子の大声が聞こえてきたら、忘れてしまったよ。」

伊都「忘れちゃったんなら仕方ないわね。んっふふ。せっかくのパーティですもの、お互い楽しみましょう!うっふふふ!!」

想「くっ!」

シオン「というわけで。お前との勝負では何度も水を差されたが……今夜は入るまで付き合ってもらうぞ」

桃子「シオン……てめぇ、自分が悪事の片棒を担いでいるって分かっているのか?」

シオン「さあね、知らないよ。美味そうな女に誘われたから、付き合ってやったまでだ。だから……桃子が付き合ってくれるのなら、こんな船がどうなろうと、どうでも良い」

桃子「……どうして、あたいにそこまで拘る?」

シオン「それこそ知れたこと……おまえに敗れた、過去の私の仇を討つためだ!」

悠「鬼島さん!」

吉音「あたしたちも助太刀するよ!」

いくら鬼島さんでも、相手は学園二大剣士の片割れ、眠利シオンだ。貨物船が今にも逃げようとしている切迫した状況で、鬼島さんまで足止めされるわけにはいかない。

おれと吉音は互いに目配せし合うなり、鬼島さんの元へ駆けつけようとする。
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