ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
悠「何か悩み事ですか?」
詠美「ええ、ちょっと……徳田さんは?いないのかしら」
悠「あいつなら逢岡さんに呼ばれて奉行所へいってますよ。なにしてるのかはよく知りませんけど」
詠美「そう。それなら少し休ませてもらおうかしら……かまわない?」
悠「あー、どぞどぞ。お茶でも淹れますね。」
いないとわかってから休むって、随分意識してるんだな。
もしかしてそれも悩みの種なんだろうか……?
詠美「ふぅ……駄目ね、ひとりで思いつめていても。袋小路に迷い込むばかりだわ」
悠「月並みですけど、聞くだけならおれでも聞きますよ。聞いていいことならですけど」
詠美「そうね。もしかすると誰かに聞いてほしくて、私はここまで来たのかも、悩んでいるのは、このところの商人たちの台頭についてよ」
悠「ああ……なるほど。そうですよね」
物価が高くなっているのも、彼らの行動が原因だ。しかしあくまでまっとうに商活動をされていては、当たり前だけど罰する事なんてできないし。
詠美「手を広げ、勢力を強め、流通の大部分を手に入れれば、自然と物価は高くなっていく。でもいわゆる独占を禁止する法は、今の学園にはない……もっと均等にものが渡るようにしたいけれど、幕府が介入してしまっては学園の理念に反してしまうし」
悠「……」
自由が保障され、シノギを削る競争があってこそ、実社会で即役立てるほどの実力が身に着く。
そこに規制をいれてしまうと、結局のところ管理された元でしか、働けない人材しか生まれない。
ぶっちゃけてしまうと、五人組に対抗できていない、他の商人がふがいないってことになるんだけど……。
詠美「そもそも幕府の中でも、規制するより利用して共栄を図った方がいいという意見もあるの。上層・下層の意識が根強いから……」
悠「ああ、例の高貴な者がひとを支配すべき云々って奴ですか」
それをしつこく繰り返している代表みたいな人がいるからな。
詠美「とりあえずそれは置くにしても、これまでの学園が崩れつつあるのは事実だわ。なのに私の立場ではなにも出来ないのが、とても歯がゆいのよ」
悠「……」
ああなるほど、それが徳河さんのいう袋小路なんだな……。
詠美「これじゃただの愚痴ね。徳河の名に泥を塗ってしまうわ……」
よし、ここはひとつ恰好つけてみるか。
悠「そんな時のためにおれ達がいるんじゃないですか」
詠美「おれたち?」
悠「おれも、新……吉音も、公式にはどこにも属していない、単なる一茶屋にすぎません。他にも鬼島さんや佐藤さんや、輝たちだっているんです。徳河さんが本気になったら、おれたちで協力できることはたくさんありますよ。全部ひとりで抱え込もうとせずに、もっと他の人を頼ってもいいと思いますよ」
詠美「……頼ってもいい、か」
悠「……」
あれ……おれなんか外したかな。徳河さんをまとう空気がスッと冷えていく。
詠美「確かに、そうして一般生徒の中で機運が高まって立ち上がるのは歓迎する。でも私が、最初からそれに期待しているようではいけないわ」
悠「あー?どうしてだ。それでうまくいくのなら……」
詠美「私は徳河だからよ」
悠「……」
詠美「他の家がらならいざ知らず、徳河は学園創設時からそのシンボルだった。同時に卒業後はみんな日本の重鎮になっている。そんな中自ら無能を認め、他人に頼りきりだったなんてことになれば、恥は私だけにとどまらないのよ。申し訳ないけれど、その申し出を私が受けることはできないわ」
当然と言えば当然か。徳河さんには徳河さんの立場で苦悩がある。だけど、おれはどうも引っかかった。
悠「……おれが出しゃばったのは謝罪する。」
詠美「あっ……違うの、こんなことを言うつもりではなかったのよ」
悠「いいです。だけど、おれはもう一歩でしゃばらせてもらいます。ひとに頼る無能よりも、ひとに頼れずに悪化させていく無能の方が……おれは情けないと思う。」
詠美「っ……」
悠「……のろまを自覚しているペンギンを、速さに自身のある白熊は、決して捕まえられない」
詠美「なんのこと?」
悠「徳河さんの思考が壁にぶつかるとしたら、おそらくその辺りだと思うって事です。暇なときに頭の片隅で考えてくれれば良いです。いろいろと失礼をすみませんでした。」
詠美「……いいの、こちらこそごめんなさいね。勝手にやってきて、嫌な思いをさせてしまったわね。そろそろお暇するわ。おあしはここにおいておくわね。ごちそうさま」
悠「毎度ありがとうございました……またいつでも。」
詠美「ええ。そのときにはあなたの出した難問にも答えられるようにしておくわ」
おれは自分の言ったことが間違っているなんて思っちゃいない。メンツなんて潰れても、結果良くなればそれでいい。
そんなふうに考えるのは、おれが徳河さんのいう一般生徒だからなのかな。
悠「何か悩み事ですか?」
詠美「ええ、ちょっと……徳田さんは?いないのかしら」
悠「あいつなら逢岡さんに呼ばれて奉行所へいってますよ。なにしてるのかはよく知りませんけど」
詠美「そう。それなら少し休ませてもらおうかしら……かまわない?」
悠「あー、どぞどぞ。お茶でも淹れますね。」
いないとわかってから休むって、随分意識してるんだな。
もしかしてそれも悩みの種なんだろうか……?
詠美「ふぅ……駄目ね、ひとりで思いつめていても。袋小路に迷い込むばかりだわ」
悠「月並みですけど、聞くだけならおれでも聞きますよ。聞いていいことならですけど」
詠美「そうね。もしかすると誰かに聞いてほしくて、私はここまで来たのかも、悩んでいるのは、このところの商人たちの台頭についてよ」
悠「ああ……なるほど。そうですよね」
物価が高くなっているのも、彼らの行動が原因だ。しかしあくまでまっとうに商活動をされていては、当たり前だけど罰する事なんてできないし。
詠美「手を広げ、勢力を強め、流通の大部分を手に入れれば、自然と物価は高くなっていく。でもいわゆる独占を禁止する法は、今の学園にはない……もっと均等にものが渡るようにしたいけれど、幕府が介入してしまっては学園の理念に反してしまうし」
悠「……」
自由が保障され、シノギを削る競争があってこそ、実社会で即役立てるほどの実力が身に着く。
そこに規制をいれてしまうと、結局のところ管理された元でしか、働けない人材しか生まれない。
ぶっちゃけてしまうと、五人組に対抗できていない、他の商人がふがいないってことになるんだけど……。
詠美「そもそも幕府の中でも、規制するより利用して共栄を図った方がいいという意見もあるの。上層・下層の意識が根強いから……」
悠「ああ、例の高貴な者がひとを支配すべき云々って奴ですか」
それをしつこく繰り返している代表みたいな人がいるからな。
詠美「とりあえずそれは置くにしても、これまでの学園が崩れつつあるのは事実だわ。なのに私の立場ではなにも出来ないのが、とても歯がゆいのよ」
悠「……」
ああなるほど、それが徳河さんのいう袋小路なんだな……。
詠美「これじゃただの愚痴ね。徳河の名に泥を塗ってしまうわ……」
よし、ここはひとつ恰好つけてみるか。
悠「そんな時のためにおれ達がいるんじゃないですか」
詠美「おれたち?」
悠「おれも、新……吉音も、公式にはどこにも属していない、単なる一茶屋にすぎません。他にも鬼島さんや佐藤さんや、輝たちだっているんです。徳河さんが本気になったら、おれたちで協力できることはたくさんありますよ。全部ひとりで抱え込もうとせずに、もっと他の人を頼ってもいいと思いますよ」
詠美「……頼ってもいい、か」
悠「……」
あれ……おれなんか外したかな。徳河さんをまとう空気がスッと冷えていく。
詠美「確かに、そうして一般生徒の中で機運が高まって立ち上がるのは歓迎する。でも私が、最初からそれに期待しているようではいけないわ」
悠「あー?どうしてだ。それでうまくいくのなら……」
詠美「私は徳河だからよ」
悠「……」
詠美「他の家がらならいざ知らず、徳河は学園創設時からそのシンボルだった。同時に卒業後はみんな日本の重鎮になっている。そんな中自ら無能を認め、他人に頼りきりだったなんてことになれば、恥は私だけにとどまらないのよ。申し訳ないけれど、その申し出を私が受けることはできないわ」
当然と言えば当然か。徳河さんには徳河さんの立場で苦悩がある。だけど、おれはどうも引っかかった。
悠「……おれが出しゃばったのは謝罪する。」
詠美「あっ……違うの、こんなことを言うつもりではなかったのよ」
悠「いいです。だけど、おれはもう一歩でしゃばらせてもらいます。ひとに頼る無能よりも、ひとに頼れずに悪化させていく無能の方が……おれは情けないと思う。」
詠美「っ……」
悠「……のろまを自覚しているペンギンを、速さに自身のある白熊は、決して捕まえられない」
詠美「なんのこと?」
悠「徳河さんの思考が壁にぶつかるとしたら、おそらくその辺りだと思うって事です。暇なときに頭の片隅で考えてくれれば良いです。いろいろと失礼をすみませんでした。」
詠美「……いいの、こちらこそごめんなさいね。勝手にやってきて、嫌な思いをさせてしまったわね。そろそろお暇するわ。おあしはここにおいておくわね。ごちそうさま」
悠「毎度ありがとうございました……またいつでも。」
詠美「ええ。そのときにはあなたの出した難問にも答えられるようにしておくわ」
おれは自分の言ったことが間違っているなんて思っちゃいない。メンツなんて潰れても、結果良くなればそれでいい。
そんなふうに考えるのは、おれが徳河さんのいう一般生徒だからなのかな。