ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「いうことは分かるけどさ、さすがにはいそうですね、とはいかないな。おれだってここに一応愛着あるし、贔屓にしてくれるひともいるんだ」

「店舗はそのままお任せしますよ。ただなんといいますか、提携というか、フランチャイズというか、まぁその」

ああ……この人のところはグループかなにかで、その傘下に入れたいってことか。

でもどういうわけかここに来る人って、徳河家だったり町奉行だったり火盗だったり、重要人物が多い。

目安箱も置いてあるし、あんまり大っぴらにしたくない事情もあるんだよな。いざというときに身動きが取れなくなったら困るし。

悠「魅力を感じないでもないけど、おれはひっそりのんびりやっていきたいんだ。申し訳ないが、その申し出は謹んで断らせてもらうよ」

吉音「んー。今でも居心地いいもんね」

悠「ひとを入れて本気で商売を始めると、サボりもつまみ食いもできなくなるからな」

吉音「えへへへ。」さすが悠はわかってるねぇ」

嬉しくないって。

「わかりました。こちらも突然押し掛けて、即OKとなるとは考えていませんでしたし。また機会が有れば、立ち寄らせていただきますよ」

やや、思ったよりはあっさり引き下がるな。

言葉通り今日は視察というか、反応を伺いに来たってところなのか。

悠「たぶん期待には添えないとは思うけど、客としてきてくれるんならいつでも歓迎するよ」

吉音「うん。またね~」

「ええ。失礼いたします」

商人らしい男の背が小さくなり、角を曲がって消えていった。

吉音「これでお店をよこせって来た人、何人目だろ小鳥遊堂はモテモテだね。」

そう、よくあることといえば、それで流すこともできる。しかし引っかかるのはまさに今日、この時期だったという事だ。

一方では仕入れが滞り、値上げをせざるを得ない状況。

一方では規模拡大を狙い、店舗や人間ごと買い取ろうとしてくる状況。

これが同時に発生する、そのわけは……?


~数日後~


朱金「よう、景気はどうだい」

悠「いらっしゃいませ。ぼちぼちですよ」

朱金「だろうな。ここがウハウハなんて想像できねぇし。まぁ茶くれ」

悠「失礼だな。まぁその通りだけど」

いつものように軽いやりとりをしてから、お茶を出す。朱金はそれを一気に飲み干して、プハッと息を吐いた。

いい飲みっぷりだ。

吉音「今日は金ちゃんひとりなの?」

悠「またサボりか。いい加減真留も切れるぞ」

朱金「ハハッ、キレるとしたら与力や同心連中が先だろう。実際オレが仕事を押しつけてるのはあいつらだからな」

悠「全然笑い事じゃないって……」

朱金「まぁまぁそっちはいいんだよ。一応今日は町の視察って名目もあるしな」

悠「視察?」

朱金「最近物価が高くなってるだろ?それで商人たちから経営が苦しいっつー話しをいくらか聞くんだ。おめぇんところはどうなのかと思ってな」

悠「ああ……なるほど」

久秀「確かに物価の上昇は実感としてあるわね。」

悠「わっ……久秀……いつのまに」

久秀「ただ素材の価格が上昇したからといって、安易に売値をあげるわけにもいかない。今は商人だけで済むレベルでも、これが続くといずれ一般生徒の方にも大きな影響が出始めるでしょうね。」

朱金「あぁ、そういうことさ。」

悠「とりあえずウチはおれと新と久秀だけだし、赤字にならなきゃいいって感じでやってるし、朱金とか光姫さんとか、常連さんが来てくれるだけで十分に回せてるよ」

吉音「ミッキーはあたしの分も買ってくれるんだよ。いいひとだよねぇ~」

朱金「うっ……いや、そんな目を向けられても……」

吉音「キラキラ☆」

朱金「……チッ、しゃーねぇなあ。悠、シンにもなにか出してやってくれ。金は、オレが出すから」

吉音「わぁい!やったー!」

悠「……あんまり新を甘やかさないでくれ、作る半分くらいはこいつに食われてる気がする。」

なにかみんな、吉音にものを食わせるのを楽しみにしてる節があるんだよな。幸せそうな顔を見てると和むってのはよくわかるんだけど。
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