ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】
ー大江戸学園:道場ー
日波屋での大立ち周りから数日後、事態の収拾を済ませた長谷河は、師匠に報告に来ていた。
平良「日波屋は金で雇った人間を使い、いろいろと悪事を行ってきたようです」
十兵衛「先日の火事については、自供したのか?」
平良「懇切丁寧に話を聞いたところ、すべてを話し自分の罪を認めました」
十兵衛「懇切丁寧ね……昔からそう尖ったところは変わらないな。飄々とした面の内側に、恐ろしく鋭い刃を隠している。鬼とは、本当に言い得て妙だ」
平良「やめてくださいよ……今回の件に関しては、失態ばかりでした。介入の仕方が中途半端でしたし、日波屋ら商人たちがどれぐらい力をつけているのか考えが甘かった。部下に火を放たせたり、武力で抵抗するなど、思ってもみませんでしたから」
十兵衛「いい経験になったじゃないか」
平良「痛い思いをしなければ、人は覚えないもの、ですものね」
十兵衛「なんにせよ、事件は火盗の活躍により解決したんだ。自分の役目は果たした、胸を張れ」
平良「そうですね」
十兵衛「岩見も、今回の一件でよくわかっただろう?憎み合うだけではどちらかが滅ぶまで、事態は終わらない」
岩見「今回のことで、それが骨身にしみてわかりました。同時に、自分のふがいなさも……自分ではゴロツキひとり相手にできない……長谷河さんたちの助けが無ければ今ごろどうなっていたか……これからも、心身ともに鍛えるため、ここで剣の稽古を続けさせてください!」
十兵衛「うむ、いい心構えだ。これは悠もうかうかしていられないな」
悠「いやー、はは~」
十兵衛「笑ってごまかそうとするな」
悠「あひゃひゃ」
岩見「よし、じゃあ小鳥遊、一本相手になってくれ」
悠「WRYYY。望むところだ!」
十兵衛「ちゃんと剣の試合でな」
悠「てへへ」
おれと岩見はそれぞれ自分の竹刀を取り出し、道場の中央へ向かった。
平良「それでは、私はこれで……」
十兵衛「待て平良、せっかくだ、ふたりの手合わせを見ていけ」
平良「しかし、仕事が残っておりますので……」
十兵衛「急ぐ仕事でもないんだろう?いいから見ていけ」
平良「はあ……」
悠「よろしくお願いします」
岩見「よろしくお願いします」
おれたちはお互いに一礼し、開始の合図を待った。
十兵衛「互いに構えっ……始めっ!」
悠「おらぁぁっ!」
岩見「はあぁっ!」
おれと岩見、互いの竹刀がぶつかり合う。岩見はアレから毎日ここで日が暮れるまで鍛錬していた。
その効果は早くも現れ、太刀筋は鋭く速度は増し、身体に入っていた余計な力も抜けてしなやかになっていた。
これは本当に気が抜けないかもしれない。
平良「ほう、岩見のヤツかなり上達しましたね。」
十兵衛「先日の立ち回りで役に立てなかったのが本当に悔しかったんだろうな。毎日泣きごとも言わず、厳しい指導に耐えているよ。ここに来たときは、日波屋への憎しみで溢れていた剣も、いまでは自身を磨く強い意志の者に変わってる。平良、岩見はお前が救ったんだぞ」
平良「……」
十兵衛「正義感の強いお前のことだ、今回の顛末には納得できない部分も多いだろう。だがな、いくら見苦しい泥仕合を演じたとしても、勝って得たものは必ずある。大事なのはそういうことじゃないだろうか」
平良「そうですね……」
悠「おらあぁぁっ!」
岩見「くっ……しまったっ……」
小手を狙って伸ばされた岩見の攻撃を、力の流れる方向を逸らすように強く打って横に払う。切っ先が有らぬ方向を向き、空いてしまったどうを守ろうと、慌てて岩見が腕に力を入れる。
だが遅い。
悠「どらぁぁぁ!」
岩見「うっ……ぐう……」
十兵衛「そこまでっ!」
悠「ふぅー……ありがとうございました」
岩見「う、くっ……はぁはぁ……ありがとうございました……」
十兵衛「どうした悠、息があがっているじゃないか」
悠「岩見、本当に強くなってて……正直驚きました……」
十兵衛「辛勝、といったところだな」
悠「剣の腕ならもうほどなくで抜かれちゃうか持って感じっすわ……負けちゃいられないっすねぇ…」
平良「その悔しさもまた、泥仕合に勝って得たもの……ということか……」
悠「あ?長谷河なんかいったか?」
平良「なんでもない、こっちの話しだ。岩見に抜かれないように、悠も頑張れよ」
そういって、長谷河は道場をあとにした。
悠「長谷河、なにかいいことあったんですか?」
十兵衛「なんでそう思う?」
悠「最後、頑張れって言ったとき、なんか嬉しそうだったんで」
十兵衛「自分と同じ、勝っても悔しそうにしている人間を見つけて、仲間だと思ったんだろうさ」
悠「おれと長谷河がですか?おれと長谷河じゃ全然違いますよ」
十兵衛「そうか?よく似合っていると思うがな」
と、師匠は意味深に笑った。
長谷河と似合っていると言われて悪い気はしないけど、隣に並ぶにはたらないものが多過ぎると思う。
もっと精進しないといけないな。
日波屋での大立ち周りから数日後、事態の収拾を済ませた長谷河は、師匠に報告に来ていた。
平良「日波屋は金で雇った人間を使い、いろいろと悪事を行ってきたようです」
十兵衛「先日の火事については、自供したのか?」
平良「懇切丁寧に話を聞いたところ、すべてを話し自分の罪を認めました」
十兵衛「懇切丁寧ね……昔からそう尖ったところは変わらないな。飄々とした面の内側に、恐ろしく鋭い刃を隠している。鬼とは、本当に言い得て妙だ」
平良「やめてくださいよ……今回の件に関しては、失態ばかりでした。介入の仕方が中途半端でしたし、日波屋ら商人たちがどれぐらい力をつけているのか考えが甘かった。部下に火を放たせたり、武力で抵抗するなど、思ってもみませんでしたから」
十兵衛「いい経験になったじゃないか」
平良「痛い思いをしなければ、人は覚えないもの、ですものね」
十兵衛「なんにせよ、事件は火盗の活躍により解決したんだ。自分の役目は果たした、胸を張れ」
平良「そうですね」
十兵衛「岩見も、今回の一件でよくわかっただろう?憎み合うだけではどちらかが滅ぶまで、事態は終わらない」
岩見「今回のことで、それが骨身にしみてわかりました。同時に、自分のふがいなさも……自分ではゴロツキひとり相手にできない……長谷河さんたちの助けが無ければ今ごろどうなっていたか……これからも、心身ともに鍛えるため、ここで剣の稽古を続けさせてください!」
十兵衛「うむ、いい心構えだ。これは悠もうかうかしていられないな」
悠「いやー、はは~」
十兵衛「笑ってごまかそうとするな」
悠「あひゃひゃ」
岩見「よし、じゃあ小鳥遊、一本相手になってくれ」
悠「WRYYY。望むところだ!」
十兵衛「ちゃんと剣の試合でな」
悠「てへへ」
おれと岩見はそれぞれ自分の竹刀を取り出し、道場の中央へ向かった。
平良「それでは、私はこれで……」
十兵衛「待て平良、せっかくだ、ふたりの手合わせを見ていけ」
平良「しかし、仕事が残っておりますので……」
十兵衛「急ぐ仕事でもないんだろう?いいから見ていけ」
平良「はあ……」
悠「よろしくお願いします」
岩見「よろしくお願いします」
おれたちはお互いに一礼し、開始の合図を待った。
十兵衛「互いに構えっ……始めっ!」
悠「おらぁぁっ!」
岩見「はあぁっ!」
おれと岩見、互いの竹刀がぶつかり合う。岩見はアレから毎日ここで日が暮れるまで鍛錬していた。
その効果は早くも現れ、太刀筋は鋭く速度は増し、身体に入っていた余計な力も抜けてしなやかになっていた。
これは本当に気が抜けないかもしれない。
平良「ほう、岩見のヤツかなり上達しましたね。」
十兵衛「先日の立ち回りで役に立てなかったのが本当に悔しかったんだろうな。毎日泣きごとも言わず、厳しい指導に耐えているよ。ここに来たときは、日波屋への憎しみで溢れていた剣も、いまでは自身を磨く強い意志の者に変わってる。平良、岩見はお前が救ったんだぞ」
平良「……」
十兵衛「正義感の強いお前のことだ、今回の顛末には納得できない部分も多いだろう。だがな、いくら見苦しい泥仕合を演じたとしても、勝って得たものは必ずある。大事なのはそういうことじゃないだろうか」
平良「そうですね……」
悠「おらあぁぁっ!」
岩見「くっ……しまったっ……」
小手を狙って伸ばされた岩見の攻撃を、力の流れる方向を逸らすように強く打って横に払う。切っ先が有らぬ方向を向き、空いてしまったどうを守ろうと、慌てて岩見が腕に力を入れる。
だが遅い。
悠「どらぁぁぁ!」
岩見「うっ……ぐう……」
十兵衛「そこまでっ!」
悠「ふぅー……ありがとうございました」
岩見「う、くっ……はぁはぁ……ありがとうございました……」
十兵衛「どうした悠、息があがっているじゃないか」
悠「岩見、本当に強くなってて……正直驚きました……」
十兵衛「辛勝、といったところだな」
悠「剣の腕ならもうほどなくで抜かれちゃうか持って感じっすわ……負けちゃいられないっすねぇ…」
平良「その悔しさもまた、泥仕合に勝って得たもの……ということか……」
悠「あ?長谷河なんかいったか?」
平良「なんでもない、こっちの話しだ。岩見に抜かれないように、悠も頑張れよ」
そういって、長谷河は道場をあとにした。
悠「長谷河、なにかいいことあったんですか?」
十兵衛「なんでそう思う?」
悠「最後、頑張れって言ったとき、なんか嬉しそうだったんで」
十兵衛「自分と同じ、勝っても悔しそうにしている人間を見つけて、仲間だと思ったんだろうさ」
悠「おれと長谷河がですか?おれと長谷河じゃ全然違いますよ」
十兵衛「そうか?よく似合っていると思うがな」
と、師匠は意味深に笑った。
長谷河と似合っていると言われて悪い気はしないけど、隣に並ぶにはたらないものが多過ぎると思う。
もっと精進しないといけないな。