ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:とある武家屋敷ー

おれと長谷河、岩見の三人が屋敷に向かうと、日波屋はさも迷惑そうに対応した。

日波屋「困りますなぁ、長谷河様。いくら火盗とはいえ、私も暇ではありませんのでね」

平良「少し聞きたいことがあるだけだ、手間は取らせんよ。昨夜、一般生徒がクラス長屋で火事が有ってな。なにか事情を知らないかと思ってね」

日波屋「火事ですか……さて、知りませんなぁ。貧乏長屋など縁が有りませんから」

平良「調べたところ放火の可能性が出てきたんだ」

日波屋「へぇ、その放火とわたしがなにか関係しているとでも?ははっ、冗談はよしてくださいよ。馬鹿らしい……そんなことをして私にどんな得があるっていうんですか。大方そこの岩見自身の火の不始末が原因でしょうよ。貧乏人はいつだってうかつなものですから」

岩見「なんだとこのぉっ!」

悠「岩見っ!落ち着けって!」

平良「おかしいな……日波屋、お前は貧乏長屋には縁がないのではなかったか?」

日波屋「えっ、ええ……そうですとも、それがなにか?」

平良「家事のことを知らないはずのお前が、なぜ火元が岩見の家だとわかったんだ?私は、一般生徒の暮らす長屋が火事にあった、としかいってないはずだが?」

日波屋「ぐっ……そ、それは……」

平良「うかつなのはお前の方だ、日波屋……」

日波屋「くっ……証拠があるわけでもないのに、言い間違いをしただけで犯人扱いですかっ!先日ここで我々の商売に口を出したことといい、少々出過ぎた真似なのではありませんか?我々は真っ当に商売をしている!それを外から火盗にとやかく言われる覚えはありませんよっ!」

取り乱した日波屋が、唾を飛ばしながら非難する。

悠「コイツ……」

日波屋「だいたい、そこの男っ!自分が作った借金もろくに返せないくせに、逆恨みして暴力に訴える始末。そのような男を処罰せずになにが火盗か!あらぬ疑いをかける前に、その男をまずなんとかすべきだ。」

平良「言いたいことは分かる。確かにお前たちの商売は法で認められた範疇のものだ。借りたものは返す、子供でも分かる道理だしな。しかし……どのような理由があれ、他人の家に火を放つなど許される事ではない!日波屋、そのことについてなにか申し開きはあるか?」

日波屋「まったく……さっさとその男を処分してくれれば、こんな面倒なことにならずにすんだのに……」

平良「……火を放ったことは否定しないんだな」

日波屋「だったらなんだというのです??たかが貧乏長屋のひとつやふたつ、たいした損害じゃないでしょう?むしろ汚いものが燃え落ちて、外観が良くなったんじゃありませんか?ははっ」

悠「なんてやつだ……」

平良「お前の性根が腐っていることはよく分かった。とりあえず、火盗まで同行してもらおうか」

日波屋「お断りします。これから金貸し同士の寄り合いが有りましても、忙しいんですよ私は」

平良「お前、自分のおかれた状況が分かっているのか?」

日波屋「長谷河様こそ、ご自分の立場がおわかりでないようで……」

日波屋が手をあげ合図を送ると、屋敷に潜んでいたごろつきたちが現れ、おれ達を取り囲んだ。

ざっと見て、二十人近くはいるだろう。

悠「野郎……」

日波屋「悪党を震え上がらせる鬼だか何だか知りませんがね、我々の力……金の力の前には無力ですよ」

平良「ふっ……この私も随分と舐められたものだ」

日波屋「いくら強がったところで多勢に無勢。このことは忘れて、お帰りになった方がお互いのためですよ?」

平良「……二度と忘れられないよう、鬼の恐ろしさをその目に焼き付けるがいい」

長谷河の睨みに、日波屋は思わず怯む。

日波屋「ちぃっ……お、お前たちっ!なにをしているんだっ!」

その声を合図に、ごろつきたちが抜刀し戦闘態勢をとる。

平良「悠っ!岩見っ!この程度の相手に後れをとるなよっ!」

悠「任せろっ!」

岩見「やってやるっ!」

日波屋「斬れぃっ!叩き切ってしまえっ!」

日波屋にせかされ、ごろつきたちが次々に襲い掛かってくる。
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