ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:とある武家屋敷ー

日波屋「先日は危ないところを助けていただきまして、本当にありがとうございました」

平良「これも仕事だからな、礼をいわれるようなことではない」

日波屋「手前どもとしましては、是非何かお礼をいたしたい次第でして……おい、例のものを」

日波屋店員「はい……長谷河様、こちらをお納めください」

平良「……これはなんの真似だ?」

日波屋「ほんのお礼の気持ちですよ、他意はありません」

平良「せっかくだが、これは受け取れないな。物価が高騰し、生徒が皆苦しんでるというのに、自分だけいい思いをするというわけにはいかない。これも、高い金利で得たものなのだろう?」

日波屋「こ、これは長谷河様……手厳しいですな……」

平良「時勢に乗って、あまり強引な商売をするなよ。商売人の視点からは正しいと思える行いも、度が過ぎれば反感を買う。このようなことが何度も起るようならば、我々も介入せざるを得ない。それにだ、借金を抱えるものがみな辻斬りになってしまっては、肝心の取り立てもできないだろう?何事もほどほどが一番だ、違うか?」

日波屋「はは……いや、長谷河様の仰る通りでございます……」

平良「わかってくれたならいいんだ。今日はそれをいいに来た、忙しいところを邪魔したな」

日波屋「いえいえ、たいしたお構いもできずに……」

平良「またなにかあれば火盗にいうといい」

日波屋「はい、そのときはよろしくお願いします……」

平良「では」

日波屋「……おい」

日波屋店員「はい、なんでございましょう」

日波屋「先日私を襲った男、岩見とかいったか……やつの家はわかるか?」



ー大江戸学園:長屋区ー

男子生徒B「火事だぁぁっ!」

岩見「嘘だろ……おい、嘘だろっ!」

男子生徒B「バカやめろっ!あんなに燃えてんだぞ!」

岩見「うあ、ああ……ああっ!燃えるっ!俺の家がっ……うわぁあああぁっ!」

女子生徒B「可哀想に……あんなに火の勢いが強いんじゃ、消えたとしても何も残らないわ……」

男子生徒B「こればっかりは運が悪かったとしか……」

岩見「運だとぉっ!そんなわけがねぇっ!ちくしょう……ちくしょうっ……あの野郎、絶対ゆるさねぇ……」



ー大江戸学園:道場ー

放課後、店を開ける前に、ちょっと稽古しようと武道場を訪れると、中で誰かが叫んでいるのが聞こえた。

悠「ん?」

岩見「お願いします!是非、お力をお貸しください!」

十兵衛「そう何度も頭を下げられてもな……」

悠「お疲れ様です……なにかあったんですか?」

平良「実は……昨夜、岩見の家が火事にあった」

悠「ええっ!本当に?」

平良「火はすぐに消し止められ、怪我人は出なかったが……岩見の家は全焼した」

岩見「日波屋だ!やつらがやったに決まってる!これは見せしめですよ!逆らえばこうなるぞと、自分の力をひけらかして脅してるんだっ……お願いします!やつらに復讐するために、十兵衛様のお力をお貸しください!」

十兵衛「気持ちは分からなくはないが、やったやり返したの繰り返しではきりがないぞ。こういったことは、その筋の専門家にまかせるほうがいい。そうだな、平良」

平良「はい、これが放火であれば、火盗の領分です。私が直に調べてまいりましょう。岩見、お前は当事者だ、一緒に来い。ただし、下手な真似をすれば、すぐに切り捨てる。分かったな?」

岩見「ぐっ……わかりました……」

悠「おれも、いっしょにいっていいかな?」

平良「悠……なぜだ?」

悠「実は、目安箱にかねかしについての訴えが有ったんだ。もし今回のことが岩見の言う通りなら、奉行所としても商人に対して行動を起こすきっかけになるかも。それに……まだ日は浅いけど、岩見とは一緒に剣を学んでる仲でもあるしな」

岩見「小鳥遊、お前……」

悠「長谷河、邪魔はしないからさ」

平良「いいだろう、一緒に来い」
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