ｰ大江戸学園:道場ｰ

竹刀を構えて真っ直ぐに十兵衛師匠を見据える。

悠「よろしくお願いします」

十兵衛「どこからでもかかってこい」

どこからでもといわれても、この人に子細工は通用しないしな……正面からぶつかるのみ!

悠「オラァァ!」

バシッ!
十兵衛「太刀筋が鋭くなってきたな、一撃一撃が重くなってきた……腕をあげたな」

悠「師匠がいいですから。なにしろ鍛錬て名目で殺しにかかって来ないし」

十兵衛「ふっ……だが、まだまだ……お前はもっと強くなれる」

悠「うおっ!!」

下から竹刀を打ちつけられ、そのまま腕があがる。

あ、ヤベ……竹刀戻さないと、これじゃ腹がガラ空きだっ。

十兵衛「遅いっ!」

目にも止まらぬ剣速。

悠「ぬんっ……!」

横薙ぎの一閃を腹部に叩きこまれる瞬間、おれは全力で腹筋を固めた。手加減してもらってるから大けがをすることはないけど、痛いものは痛たい。

十兵衛「ここに通い始めたころより、だいぶ上達してきたな。やはり、悠には素質があるのだろう」

悠「そ、そうっすかね……今の一撃そうとう痛いですけど」

十兵衛「痛みを感じなければ、人は覚えていかないものさ。ただ、今のも竹刀で受けるつもりより、打たれて耐えきる方を選んでたのは自分の打たれ強さに対する過信とも思えたがな」

過信て言うかその選択肢以外なかっただけなんですけどね……。

平良「失礼します」

十兵衛「平良か、どうした?」

平良「はっ、折り入って十兵衛さんにお願いがありまして……」

そういって、長谷河は後ろに控えていた男子生徒を前に出した。

岩見「岩見です、よろしくお願いします……」

どこか暗い雰囲気を持った男子生徒、岩見が師匠に向かって一礼する。

十兵衛「いつものアレ、か?」

平良「はい、この男を鍛えてやってください」

十兵衛「ふむ……悠、この男と手合わせしてみろ。実力を見て見たい。もちろん素手喧嘩(ステゴロ)は抜きでな」

悠「えっ?あ、はい」

十兵衛「岩見といったな、竹刀を貸してやる。これを真剣だと思って悠に打ちこんでみろ」

岩見「わかりました……」

師匠から竹刀を受け取った岩見がおれと対峙する。

なんだか事態が飲みこめないうちに、岩見と試合する事になってしまった。

平良「では、よろしくおねがいします」

十兵衛「見ていかないのか?」

平良「悠の剣の腕には興味がありますが、仕事を残していますので」

十兵衛「そうか、たまにはこういう用ではなく、自身の鍛錬にも来い」

平良「近いうちに必ず。失礼します」

ことを師匠に任せると、長谷河は仕事に戻っていった。

十兵衛「待たせたな、それではお互い構えっ!」

師匠の声に、おれ達は竹刀を構える。

とりあえず相手の実力がわからない以上、まずは様子見かな。

相手を見据え、開始の合図を待っているそのときだった。どこか暗かった岩見の雰囲気が、なにか別のものに代わっていくのを感じた。

見開かれ、おれを睨みつける瞳に、強い憎しみの炎がともっている。