ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「ただいまー」

吉音「おかえりー、想ちゃん来てるよー」

想「お邪魔してます」

悠「ああ、いらっしゃい。すぐにお茶を淹れますね」

想「どうぞお構いなく」

久秀「じゃあ、有料でいいわね。」

悠「やめなっせ」

買い出しで購入した荷物をいったん裏に置いて、四人分のお茶を用意する。

お茶請けに羊羹を添えて店内に戻ると、吉音と逢岡さんは目安箱を確認しているところだった。

想「『最近物価が高くなって困っています。それと同時に、金貸しの横暴も目につくようになってきました。お金に困って借りようと思っても、利率をあげられてしまって返済のことを考えると借りられません。生徒会や町方の方で規制をすることはできないのでしょうか』……ですかぁ」

吉音「みんなお金ないって困ってるもんね」

悠「物価が高くなっても収入が変わらなければ、どんどん生活が苦しくなってくるからな」

久秀「規制したところで金貸し自体が貸さなくなったら意味がないのにねぇ」

想「そんなに上がっているのですか?」

悠「さっき買い出しに出たときも、予算は同じなのにいつもの半分しか買えなかったよ。この調子であがっていったら、そのうちみんな物をかえなくなっちゃうんじゃないかな。」

久秀「ただでさえ暇な久秀の店が、このままだと経営もたちいかなくなるかもね」

悠「うん…………って、おれの店だよ!言ってることはその通りだけど、お前の店じゃない!」

吉音「ソレは困る!お店なくなっちゃったら悠のお菓子食べられないじゃない!ねえ想いちゃん、なんとかならないかなぁ?」

想「そうですねぇ……正直、これは難しい問題ですね。物価の高騰と金貸しの金利のことは、最近表面化してきた問題で、奉行所にも相談が来ています。ですが。それらは許可を得てやっている正当な商売ですから、それに対して奉行所が介入し、一方的に規制するとあれば、商人から強い反感を買うでしょう。とはいえ、投書にあるようなご意見も分かりますし……ううん……」

悠「あちらを立てればこちらが立たず……いまの段階では、奉行所は手を出しづらいですよね」

久秀「何か起こってからだと手遅れになるだけ……だけどね」

悠「久秀」

想「物価の高騰……根本的な問題を解決できればいいんでしょうけど……」

仕組みの穴を突いた、建前上は正当な商売。しかしそれは、人道的に見ればひとの弱みに付け込むようなものと思われても仕方がない。

悪い事をしているとは言い切れないけど、褒められるような事でもない。

逢岡さんの言う通り、根本的な問題をなんとかしないとどうにもならない気がする。

吉音「なんだか難しいねぇ……悪の黒幕が居て、そいつをバーンってやっつけるだけなら簡単なのに」

想「一筋縄ではいかない、難しい問題ですね。これが事件を呼ぶようなことがなければいいのですが……」





ー大江戸学園:某所ー

金貸しの店主、日波屋は一日の仕事を終え、自宅へ戻るところだった。

そこへ、ひとりの男子生徒が現れる。

男子生徒「日波屋ぁ……覚悟しろっ!」

日波屋「なっ、なんだ貴様ぁっ!」

突然現れた人影に怯んだ日波屋に、男子生徒が切りかかる。

男子生徒「俺たちの苦しみ……思い知れぇっ!」

日波屋「ひっ!!」

ガキャン!

日波屋を襲うはずだった凶刃は、またも突然現れた人物によって弾かれ、阻まれた。

男子生徒「ちっ、何者だ!」

平良「火付盗賊改方、長谷河平良……」

男子生徒「鬼平っ!なっ、なんで火盗の鬼平がここにっ……」

平良「このところ金貸しの日波屋の関係者を狙う辻霧が頻繁に起っていた……犯人はお前だな。お馴染み背の人間を必要に狙えば警護もつく、そんなことも分からなかったのか?それに加えて、お前の剣はなんだ?まるでなっちゃいない。それじゃ鉄の棒を振りまわしているのと変わらないぞ。刀が可哀想だ」

男子生徒「このっ……言わせておけばっ……」

平良「実力の差は歴然、それなのにまだ向かってくるか……底が知れるというものだ」

男子生徒「ほざけぇっ!」

平良「はあぁっ!」

男子生徒「うっ……ぐぅ、くそぉ……」

平良「やれやれ、これは心身ともに鍛え直さなければいけないな……」
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