ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】
ー大江戸学園;廊下ー
「遊びじゃないなら、なおさら性質が悪いな」
珠子「え?」
長谷河が声をかけると、銀珠子と由真が同時にこちらを向いた。
銀珠子は驚きの表情で固まり、由真は長谷河の隣に立つおれへと視線を移す。
由真「…………」
どうしておれが長谷河と一緒に居るのかと、まさか勝負のことをばらしたのかと、責めるような眼差しだ。
それは誤解だと、おれは長谷河に気づかれないよう、必死に目で訴える。
おれは食堂でたまたま見かけた長谷河に、声をかけようとしただけだ。すると、ちょうどそのとき、銀珠子が長谷河に近づいて来るのに気づいた。
なにをするつもりなのかと、立ち止まって様子を窺っていると、銀珠子が長谷河の背後を通り過ぎる。
それだけだったから拍子抜けしていると、長谷河が勢いよく席を立ち、銀珠子のあとを追って歩きだした。その様子から、自体が動いたらしいことを察して、おれも長谷河についてきたというわけだ。
悠「……」
由真「……」
どうやらおれの訴えはこれっぽっちも伝わってないらしく、由真の表情に変化はなかった。後で説明しないとだな、これは……。
平良「さて」
沈黙を破ったのは、長谷河の声だった。
長谷河は銀珠子の前まで行って、その顔を覗きこむ。
珠子「……」
平良「なかなかの手際だったな。スられる瞬間に捕まえてやろうかと思ってたのに、まんまとやられちまったよ。だが、カラの財布なんかスって、いったいどうするつもりなんだ?」
珠子「カラ?」
長谷河の言葉に目を見開き、銀珠子は手にした財布を開いた。
悠「……」
珠子「これは……」
財布の中から出てきた紙きれを見て、銀珠子が愕然としている。
その紙きれを横から覗きこんでみると、『全てお見通しだ』と、達筆な文字で記してあった。
平良「お前さんの身のこなしから、スリだろうと見当はついていた。だからわざと隙をつくって、実際に盗みに来たところを捕まえてやろうと思ってたんだが……なかなかやるじゃないか」
珠子「…………」
淡々と語る長谷河さんの声を、銀珠子はほとんど聞いていないようだった。わざと隙を見せられていたこと、そしてカラの財布だと気づかなかったことなどがショックだったんだろう。
平良「なんにせよ、カラの財布だろうと盗みは盗み。大人しくお縄についてもらうぞ」
珠子「……好きにすれば」
銀珠子は不満そうに言い捨てて、そっぽを向く。だが、逃げるつもりはないらしく、その場にとどまっている。
そんな銀珠子の様子に、長谷河は満足そうにうなずいてから、由真の方にも目をむけてきた。
平良「で、お前さんとはどういう関係なんだ?」
由真「それは……」
珠子「たまたまここでぶつかっただけよ」
由真「え?」
返事に迷う由真を助けたのは、銀珠子の声だった。
平良「ぶつかっただけにしては、ずいぶん話しこんでたみたいじゃないか」
珠子「ぶつかったついでに財布をスってやろうとしたのよ。そしたら手を掴まれちゃって、それで言い合いになっただけ」
平良「……まあ、そこら辺のことも含めて、じっくり話を聞かせてもらうとしよう。小鳥遊、由真、またあとでな」
長谷河はそういうと、銀珠子を連れて、その場からさっていった。
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
悠「あの子、結局、お前との勝負のことは話さなかったみたいだな」
由真「……そう」
銀珠子との一件から数日が過ぎた。
長谷河に連れていかれた彼女は、素直に取り調べに応じているらしい。だが、由真との関係については知らぬ存ぜぬ。
長谷河の財布を狙ったのは、自分の腕試しのためだと言っているんだそうだ。ついでに怪盗猫目についても何も話していないようだ。
悠「案外さ、怪盗猫目のこと好きだったんじゃないか?」
由真「え?」
悠「ほら、いってたじゃないか。お前のこと、嫌いじゃないって」
由真「だったらなに?助けてやれとか言われても無理だからね」
悠「そんなこと言う気はないけど……」
由真「まあいいじゃない。構成するいい機会だったとでも思えば」
由真はおれの言葉を遮るようにいい捨てると、これで話しは終わりだとばかりに背中を向けた。
悠「……」
由真「あーあ。有名になり過ぎるのも考えもんね。こんな面倒なことに巻き込まれたりするんだから」
悠「有名じゃなくても、いつも周りからとばっちりを受けるおれみたいなのもいるんだが?」
由真「なんかいった?」
悠「んにゃ、別に」
わずかに振り返った由真は、おれと目が合うと唇を尖らせて、ぷいっと顔を逸らした。
由真「じゃあね。」
悠「ああ、またな」
不機嫌そうに去っていく由真の背中を見送る。やれやれ。ここに来てからというもの、騒ぎが絶えないな。
「遊びじゃないなら、なおさら性質が悪いな」
珠子「え?」
長谷河が声をかけると、銀珠子と由真が同時にこちらを向いた。
銀珠子は驚きの表情で固まり、由真は長谷河の隣に立つおれへと視線を移す。
由真「…………」
どうしておれが長谷河と一緒に居るのかと、まさか勝負のことをばらしたのかと、責めるような眼差しだ。
それは誤解だと、おれは長谷河に気づかれないよう、必死に目で訴える。
おれは食堂でたまたま見かけた長谷河に、声をかけようとしただけだ。すると、ちょうどそのとき、銀珠子が長谷河に近づいて来るのに気づいた。
なにをするつもりなのかと、立ち止まって様子を窺っていると、銀珠子が長谷河の背後を通り過ぎる。
それだけだったから拍子抜けしていると、長谷河が勢いよく席を立ち、銀珠子のあとを追って歩きだした。その様子から、自体が動いたらしいことを察して、おれも長谷河についてきたというわけだ。
悠「……」
由真「……」
どうやらおれの訴えはこれっぽっちも伝わってないらしく、由真の表情に変化はなかった。後で説明しないとだな、これは……。
平良「さて」
沈黙を破ったのは、長谷河の声だった。
長谷河は銀珠子の前まで行って、その顔を覗きこむ。
珠子「……」
平良「なかなかの手際だったな。スられる瞬間に捕まえてやろうかと思ってたのに、まんまとやられちまったよ。だが、カラの財布なんかスって、いったいどうするつもりなんだ?」
珠子「カラ?」
長谷河の言葉に目を見開き、銀珠子は手にした財布を開いた。
悠「……」
珠子「これは……」
財布の中から出てきた紙きれを見て、銀珠子が愕然としている。
その紙きれを横から覗きこんでみると、『全てお見通しだ』と、達筆な文字で記してあった。
平良「お前さんの身のこなしから、スリだろうと見当はついていた。だからわざと隙をつくって、実際に盗みに来たところを捕まえてやろうと思ってたんだが……なかなかやるじゃないか」
珠子「…………」
淡々と語る長谷河さんの声を、銀珠子はほとんど聞いていないようだった。わざと隙を見せられていたこと、そしてカラの財布だと気づかなかったことなどがショックだったんだろう。
平良「なんにせよ、カラの財布だろうと盗みは盗み。大人しくお縄についてもらうぞ」
珠子「……好きにすれば」
銀珠子は不満そうに言い捨てて、そっぽを向く。だが、逃げるつもりはないらしく、その場にとどまっている。
そんな銀珠子の様子に、長谷河は満足そうにうなずいてから、由真の方にも目をむけてきた。
平良「で、お前さんとはどういう関係なんだ?」
由真「それは……」
珠子「たまたまここでぶつかっただけよ」
由真「え?」
返事に迷う由真を助けたのは、銀珠子の声だった。
平良「ぶつかっただけにしては、ずいぶん話しこんでたみたいじゃないか」
珠子「ぶつかったついでに財布をスってやろうとしたのよ。そしたら手を掴まれちゃって、それで言い合いになっただけ」
平良「……まあ、そこら辺のことも含めて、じっくり話を聞かせてもらうとしよう。小鳥遊、由真、またあとでな」
長谷河はそういうと、銀珠子を連れて、その場からさっていった。
ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー
悠「あの子、結局、お前との勝負のことは話さなかったみたいだな」
由真「……そう」
銀珠子との一件から数日が過ぎた。
長谷河に連れていかれた彼女は、素直に取り調べに応じているらしい。だが、由真との関係については知らぬ存ぜぬ。
長谷河の財布を狙ったのは、自分の腕試しのためだと言っているんだそうだ。ついでに怪盗猫目についても何も話していないようだ。
悠「案外さ、怪盗猫目のこと好きだったんじゃないか?」
由真「え?」
悠「ほら、いってたじゃないか。お前のこと、嫌いじゃないって」
由真「だったらなに?助けてやれとか言われても無理だからね」
悠「そんなこと言う気はないけど……」
由真「まあいいじゃない。構成するいい機会だったとでも思えば」
由真はおれの言葉を遮るようにいい捨てると、これで話しは終わりだとばかりに背中を向けた。
悠「……」
由真「あーあ。有名になり過ぎるのも考えもんね。こんな面倒なことに巻き込まれたりするんだから」
悠「有名じゃなくても、いつも周りからとばっちりを受けるおれみたいなのもいるんだが?」
由真「なんかいった?」
悠「んにゃ、別に」
わずかに振り返った由真は、おれと目が合うと唇を尖らせて、ぷいっと顔を逸らした。
由真「じゃあね。」
悠「ああ、またな」
不機嫌そうに去っていく由真の背中を見送る。やれやれ。ここに来てからというもの、騒ぎが絶えないな。