ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】
ー大江戸学園:廊下ー
珠子「ふぅ……」
食堂を出て、長谷河平良の姿が見えなくなるまでのあいだ、寿命が乳む思いだった。
もし呼び止められていたら、逃げ切ることなんてできなかっただろうし。でも、私は勝ったんだ。長谷河平良に。子住由真にも。
由真「ずいぶんご機嫌じゃない」
珠子「え?」
いきなりの声に驚いて振り向くと、そこには子住由真が立っていた。一瞬、驚きはしたものの、すぐに余裕を取り戻す。
由真「……」
珠子「悪かったわね。勝負は私の勝ちみたい。」
由真「勝負?」
珠子「なにとぼけてるの?ほら、これ」
由真「なにその財布?」
珠子「だから、長谷河平良の財布よ」
由真「ー。ホントにスッたんだ、アンタ」
なにかがおかしい。子住由真は、どうしてこんなにも余裕綽々なの?もう決着はついてるのに。
まさか、しらを切り通して、勝負をなかった事にするつもりなの?なんて恥知らずな……。
まあ、それならそれで、財布を返さないつもりだけだけど。……財布?
私はそのときになって、子住由真が、手にした財布をお手玉のように軽やかに弾ませていることに気づいた。
珠子「その財布は!?」
由真「ん?私の財布がどうかした?」
珠子「…………」
私は一瞬、あっけに取られ……あわてて自分の懐を確認する。ない!?自分の財布と一緒に入れておいた、子住由真の財布が……。
由真「コソコソ相手のすきを窺うのは得意でも、自分自身が隙だらけじゃ、ちょっとカッコつかないと思わない?」
珠子「なんですって!」
由真「あ、別にアンタのこと言ったわけじゃないんだけど、気に障ったならごめんなさいね」
なんて意地の悪いヤツなの!でも、こいつに財布をスられたことは事実だ。
スリの私が、ただの泥棒でしかないコイツに……。
珠子「それでも、勝負は私の勝ちなんだからね!」
由真「だから、勝負ってなんのこと?」
珠子「とぼけないでよ!今さら勝負をなかったことになんてさせないからね!」
由真「なかったことにするもなにも、私がいつ、アンタとの勝負を受けたっていうの?」
珠子「……は?」
由真「よく思い返してみなさいよ。あの時、アンタとの提案に私はうなずいた?」
珠子「それは……」
言われてみれば確かに、子住由真は私の言葉にひと言として頷いてなかった気がする。
肯定も否定もせず、冷ややかな瞳でこちらを睨みつけ、挑発する私の言葉を黙って聞いていた。
由真「……」
珠子「でも……だったらなんで、あんな思わせぶりな態度をとってたのよ?」
由真「それはアンタに誤解して欲しかったからよ。私が勝負を受けたってね」
珠子「なんでそんな……」
由真「だってそうでもしないと、アンタの居場所が分からないじゃない。」
珠子「私の居場所?」
由真「ええ。財布を取り戻すためには、アンタの居場所を把握しておかなくちゃでしょ?だから、勝負を受けたふりをして、平良さんの様子を窺ってるアンタのあとをつけてたってわけ」
珠子「なによそれ?じゃああなたは、最初から私との勝負なんてどうでもよかったていうの!」
由真「……勝負はね。でも、やられっぱなしなのは気にくわないから、財布だけは自力で取り戻させてもらったわ」
珠子「訳わかんないんだけど……気にくわないんなら、素直に勝負を受ければよかったじゃない」
由真「それとこれとは話が別よ。私たちは遊びでそういうことをしてるわけじゃないの。だから無意味な勝負なんて受けるつもりはないわ」
珠子「私だって遊びでやってるわけじゃないわ!」
珠子「ふぅ……」
食堂を出て、長谷河平良の姿が見えなくなるまでのあいだ、寿命が乳む思いだった。
もし呼び止められていたら、逃げ切ることなんてできなかっただろうし。でも、私は勝ったんだ。長谷河平良に。子住由真にも。
由真「ずいぶんご機嫌じゃない」
珠子「え?」
いきなりの声に驚いて振り向くと、そこには子住由真が立っていた。一瞬、驚きはしたものの、すぐに余裕を取り戻す。
由真「……」
珠子「悪かったわね。勝負は私の勝ちみたい。」
由真「勝負?」
珠子「なにとぼけてるの?ほら、これ」
由真「なにその財布?」
珠子「だから、長谷河平良の財布よ」
由真「ー。ホントにスッたんだ、アンタ」
なにかがおかしい。子住由真は、どうしてこんなにも余裕綽々なの?もう決着はついてるのに。
まさか、しらを切り通して、勝負をなかった事にするつもりなの?なんて恥知らずな……。
まあ、それならそれで、財布を返さないつもりだけだけど。……財布?
私はそのときになって、子住由真が、手にした財布をお手玉のように軽やかに弾ませていることに気づいた。
珠子「その財布は!?」
由真「ん?私の財布がどうかした?」
珠子「…………」
私は一瞬、あっけに取られ……あわてて自分の懐を確認する。ない!?自分の財布と一緒に入れておいた、子住由真の財布が……。
由真「コソコソ相手のすきを窺うのは得意でも、自分自身が隙だらけじゃ、ちょっとカッコつかないと思わない?」
珠子「なんですって!」
由真「あ、別にアンタのこと言ったわけじゃないんだけど、気に障ったならごめんなさいね」
なんて意地の悪いヤツなの!でも、こいつに財布をスられたことは事実だ。
スリの私が、ただの泥棒でしかないコイツに……。
珠子「それでも、勝負は私の勝ちなんだからね!」
由真「だから、勝負ってなんのこと?」
珠子「とぼけないでよ!今さら勝負をなかったことになんてさせないからね!」
由真「なかったことにするもなにも、私がいつ、アンタとの勝負を受けたっていうの?」
珠子「……は?」
由真「よく思い返してみなさいよ。あの時、アンタとの提案に私はうなずいた?」
珠子「それは……」
言われてみれば確かに、子住由真は私の言葉にひと言として頷いてなかった気がする。
肯定も否定もせず、冷ややかな瞳でこちらを睨みつけ、挑発する私の言葉を黙って聞いていた。
由真「……」
珠子「でも……だったらなんで、あんな思わせぶりな態度をとってたのよ?」
由真「それはアンタに誤解して欲しかったからよ。私が勝負を受けたってね」
珠子「なんでそんな……」
由真「だってそうでもしないと、アンタの居場所が分からないじゃない。」
珠子「私の居場所?」
由真「ええ。財布を取り戻すためには、アンタの居場所を把握しておかなくちゃでしょ?だから、勝負を受けたふりをして、平良さんの様子を窺ってるアンタのあとをつけてたってわけ」
珠子「なによそれ?じゃああなたは、最初から私との勝負なんてどうでもよかったていうの!」
由真「……勝負はね。でも、やられっぱなしなのは気にくわないから、財布だけは自力で取り戻させてもらったわ」
珠子「訳わかんないんだけど……気にくわないんなら、素直に勝負を受ければよかったじゃない」
由真「それとこれとは話が別よ。私たちは遊びでそういうことをしてるわけじゃないの。だから無意味な勝負なんて受けるつもりはないわ」
珠子「私だって遊びでやってるわけじゃないわ!」