ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:廊下ー

悠「なんでこんなところに……」

珠子「なんでって、長谷河平良を狙ってるんだから、その様子を窺ってなにがおかしいのよ?」

さも当然だとばかりにいいながら、銀珠子がおれの顔を覗きこんでくる。

悠「……」

珠子「も~。いくら自分のカノジョが心配だからって、勝負の邪魔をするのは許さないからね」

悠「いやいや。だからおれと由真はそういうのじゃないから」

珠子「え~、なにその反応?もっと恥ずかしがってくれないとつまんないんだけど?」

悠「つまんないって……別にお前を楽しませてやる義理はねーだろ」

こいつ、おれや由真をからかうために、わざと言ってるんじゃないだろうか?

珠子「なんにせよ、おかしな気は起こさない方がいいと思うよ?私は口が堅いつもりだけど、うっかり口が滑っちゃうこともあるかもしれないから」

銀珠子はそれだけいうと、肩の辺りでひらひらと小さく手を振り、小走りにその場から走っていった。

今のって……釘を刺されたんだよな。しかも笑顔で。

その姿も仕草も、どこにでもいるような女の子でしかないのに……。

いや。だからこそ余計に性質が悪いのかもしれないな。



ー大江戸学園:教室ー

教室に戻ったおれは、自分の席に向かいながら、無意識に由真の姿を探していた。

別に、結花さんたちと話したことを伝える気はないがなんとなく……。あれ?いない?

由真「なにボーっとしてんの?」

背後から声が聞こえた直後、風を巻き起こすほどの勢いで、由真がおれの真横を通りぬけていった。

悠「驚かすなよ」

由真「ふふっ」

おれの目のまえまで戻って来た由真が、なにやら機嫌よさそうに笑っている。

そして、手にした財布をお手玉のように軽やかに弾ませながら……。……え?その財布……。

悠「おれのじゃないか。」

由真「やっと気づいたの?」

由真はおれの反応を見てにんまりと笑い、財布を投げ返してきた。

悠「いったい、いつの間に……」

由真「そんなの今に決まってるでしょ」

悠「今って、すれ違ったあの一瞬でか?」

由真「どう?なかなかのもんでしょ?」

由真は自慢げに、広げた手をひらめかせる。

確かに、身体に触れられたような感覚はなかったし、その手際はすごいとしかいいようがないが……。

悠「まさかお前も長谷河さんからス……直接とるつもりなのか?」

由真「ふふーん。それは、ヒ・ミ・ツ」

由真はそういうと、自信満々な笑みを浮かべて自分の席へと戻っていってしまうのだ。



ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

悠「はぁ~……」

今日は一日中、勉強にも仕事にもみに入らなかったな。もっとも、店はいつも通り閑古鳥が鳴いていたので、特に困るようなこともないのだが。

とりあえず、早々に店じまいをして、吉音と久秀も先に帰してしまった。

おれもそろそろ部屋に戻るつもりだが……。ねずみやを横目に見やり、ため息を吐く。

由真と銀珠子の勝負は、いったいどうなってしまうのやら。自分の傍観者っぷりが歯がゆくなってくるな。

だからといって、なにかしようにも、由真は取り合ってくれないし、銀珠子には釘を刺されてるし……。
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