ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:境内ー

悠「っか、アンタはどうして由真のことを知っているんだ?」

珠子「そりゃ有名だもの」

悠「でも、そんな簡単に招待なんて分かるもんじゃないだろ?」

珠子「そこらへんは蛇の道は蛇とでもいうか……まあ、こっち側の人間だったら、私以外にも気づいている奴はいるんじゃない?」

悠「ふぅん」

由真「…………」

銀珠子と名乗った彼女の言葉を吟味するよう、由真はしばらく黙りこみ、そして冷めた声音で返す。

由真「で、アンタは鼻持ちならない義賊様をからかってやろうと、アタシの財布をスったってわけ?」

珠子「え?違うって。別に私、あなたのこと嫌いってわけじゃないし。義侠心っていうんだっけ?そういうのもカッコイイと思ってるよ?」

由真「…………」

珠子「ちょっとー、そんな怖い顔しないでよ。煽るつもりなんてないんだから」

由真「だったら、なんで……」

珠子「それは、ほら」

悠「?」

なぜかおれを見て、銀珠子がニヤッと笑った。

珠子「そりゃあ、ちょっかいも出したくなるってもんでしょ。だってあの怪盗猫目が、天下の往来でカレシといちゃついてるところをみかけちゃったんだから」

由真「はあああああっ!?なにバカなこと言ってんのよ!こんなのが私のカレシのわけ無いでしょ!」

悠「こんなのって……」

珠子「そんなに恥ずかしがることないのに」

由真「恥ずかしがってるとか、そういうのじゃないから!ホントやめてくんない!迷惑なんだけど!」

悠「…………」

事実とは言え、ここまで全力で否定されてしまうと、なんだか悲しくなってくるな。

それはそうと、由真がすっかり素に戻ってしまっている事に、銀珠子が楽しそうに笑っていた。

珠子「はいはい。じゃあ、そういうことにしといてあげる」

由真「だからー!」

珠子「ところでさ……」

由真「!?」

話を遮りながら、銀珠子が懐からなにかを取り出した。どうやらそれが由真の財布らしい。

珠子「これ、返してほしい?」

由真「返してっていっったら、素直に返してくれるわけ?」

珠子「私は構わないけど……あなたはそれでいいの?」

由真「……どういう意味?」

珠子「私にやられっぱなしで、あなたはそれでいいのかって聞いてるのよ」

由真「…………」

珠子「ねえ、私と勝負をしてみない?」

由真「勝負?」

珠子「うん。私とあなた、どちらの盗みの腕が上かって、あなたが勝ったら財布を返す。私が勝ったら財布は私のものってことで、どう?」

由真「…………いっとくけど、たいして入ってないわよ」

珠子「知ってるわ。中身を確認する時間なんていくらでもあったし。でも、こういうのって金銭の問題じゃないでしょ?」

由真「…………」

悠「おい、由真」

きな臭い話になって来た事にあせり、とっさに呼びかけてみたものの、由真はこちらを見ようともしない。

由真「勝負の方法は?」

珠子「決められた相手から、どちらが先に財布を盗み出せるか、っていうのでどう?」

由真「私にスリをしろって言うの?」

珠子「手段は自由よ。でも、家に盗みに入るのも大変だと思うけどね」

由真「もう相手も決めてあるんだ?」

珠子「ええ。火付盗賊改方、長谷河平良」

由真「平良さん、か」

珠子「なに?大物すぎて怖気づいた?」

由真「…………」

珠子「ってわけでもなさそうね。じゃあキマリ。長谷河平良の財布を先に手にした方が勝ちってことで」

銀珠子はにんまり笑うと、軽やかに身を翻す。

悠「おい…」

珠子「期限は一週間。お互いに手が出せずに引き分けだった場合も財布は返してあげる。だから、へまをして捕まってりしないでね。怪盗猫目は市民のヒーローなんだからさ♪」

そういって、由真の財布を持った手を大きく振りながら、銀珠子は境内から去っていった。

悠「由真。あんな勝負受けて、本当に良かったのか?今からでも、おれが絞めあげて気もいいんだぞ」

由真「さーね」

悠「さーねって……知らないぞ、結花さんに怒られても。それに、もし捕まったりしたらどうするんだよ?」

由真「捕まる?誰が?」

悠「おいおい。相手は長谷河なんだぞ。いくらお前だって、万が一ってことが……」

由真「大丈夫だって。万が一なんて絶対にあり得ないから」

悠「でも……」

由真「あーもー、うっさいなー。ま、黙って見てなさいって」

悠「由真?おい!」

結局、それ以上はとりあおうとせず、由真はさっさと歩いていってしまう。その表情は何故か楽しげで……いったいなにを考えてるのやら?
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