ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー大江戸学園食堂ー

おれはふとひとりごちる。

「なんだか秘密警察みたいなやり口だな。」

「だよなぁ?」

「うわっ!」

顔を上げると食べ終わった食器を乗せたトレイを持ったひとりの女生徒が立っていた。
長い黒髪に鋭い目。
ただ者じゃない雰囲気だ。
胸のサイズは…そこそこ大きめ。

「さっきの話もっと聞かせてくれないか?治安強化法についてなにかいいかけただろ。」

おれはうーんと唸った。
ヘタに口を開くのは禍の元だ。特にここでは。

「安心しろ、私もあの酉居という男はいけ好かない。遠慮せずにいってくれ。」

彼女はそういって微笑んだが、その笑みにすらえらく凄みがあった。
こいつは相当な不良か…?それもチンピラなんかじゃなく、結構な組織の組長級(クラス)の根拠はないがそんな気がする。

おれは言葉を選んでいった。

「ちょっと違和感があったかな」

「例えば?」

「報奨金を出して報告させるっていうのは、要するに密告だよな。それは生徒同士で見張り合えって話だろ。それじゃ誰も信用できなくなる。そんな他人に対する不信で補強された平和なんか歪(いびつ)だろ。おれにはそれがいいやり方だとはどうしても思えない。」

おれが話をしているあいだ、彼女は肯定も否定もせず静かにうなずいていた。

「なるほど。確かに密告というのは気持ちのいいやり方じゃない。だが綺麗ごとばかりでもうまくいかない。人が人を治めるっていうのは難しいな。」

「ま、それこそカリスマ(治める人間の腕)の見せどころじゃないかな」

彼女はこれまでで一番穏やかな笑顔を見せて、おれの背中をぽんと叩いた。

「非常に興味深い話だった」

彼女はそういってトレイの返却口へと向かった。
すれ違いにおかわりに行っていた新が、白飯山盛りのどんぶりを持って戻ってきた。

「ただいま~」

「こんにちは、小鳥遊君。」

新の後ろから顔を覗かせたのは南町奉行の逢岡さんだった。

「ちわっす」

「そこで偶然あったんだよ。想ちゃんもこれからお昼だっていうから一緒に食べよう。」

「よろしいですか」

「もちろん。是非ご一緒お願いします。」

逢岡さんは「常識的」な量の昼食の乗ったトレイをテーブルにおく。

「あの、さっきお話ししていた方は…」

「あー…知らない人。おれと同じ不良かも」

「えっと…」

「あれ?逢岡さんは知ってるの?」

「いえ…たぶん人違いだと思います。」

そう?っと、おれが首を傾げた隣で新はパンッと手を合わせていった。

「それじゃいただきまーす」

「お前二回目だろ。」

「いいじゃない。お米には感謝しなきゃ」

「はぁ…おれにも感謝してくれ。」

だが、今日の昼飯は最高だった。何せ、くすくすと上品に笑う逢岡さんの笑顔がどれだけ素敵か…。
あの笑顔で白飯三杯はいけるぜ。
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