ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー


吉音「あー、悠なにひとりで面白そうなことやってるのー」

悠「いや、おもしろそうって……」

……すみません。確かに面白いと思ってました。

吉音「あーん」

悠「あ?」

吉音「あたしも、あーん」

悠「はいはい」

はじめ「あーん」

悠「わかりましたってば」

なんか、雛鳥にせっせと餌を運ぶ親鳥の気持ちが、少しわかったような気がした。

往水「ごめんなさいよ。何かさわがしいようですが、いったい何をなさってるんで」

吉音「あ、いくみん……もぐもぐ」

悠「口の中に何か入れたまま話すのやめなって場。行儀の悪い……」

吉音「ごっくん……。で、いくみんは見回り?」

往水「まあ、そのようなもんでして。ほほう、バーベキューですか。いい匂いがしてるじゃありませんか」

吉音「いくみんも食べる?はい、あーん」

往水「あ、こりゃどうも、いただきます。いえ、アタシも肉には目がなくってね。んー、こりゃいい肉だ。これは冷えた泡の出るアレが欲しくなりますなあ」

悠「シャボン液?」

往水「そんなものを呑みゃあしませんよ。わかってていうんだから小鳥遊さんもお人が悪いですねぇ」

吉音「悠ー、あーん」

悠「はいはい」

はじめ「あーん」

悠「はいはい」

往水「あーん」

悠「はいはい……って、なんで仲村まで」

いったいなにをやってんだろう、おれって。

越後屋「おお、皆さん素晴らしい食べっぷりやな。あれだけ用意してあった肉、綺麗に片付いてしもたで」

悠「え?」

わたし、ほとんどなにもたべてないよぉ?

吉音「ごちそうさまー、悠。あたし、おなかいっぱいー」

はじめ「ごちそうさま……」

悠「はいはい、それはようございました」

満足そうな面々を見ながら、なぜかおれは目から汗が止まらなかった。

越後屋「さて……ご参加くださった皆様のお手元に、プリントが渡ったと思いますが」

悠「プリント?」

見れば、いつの間にかテーブルの上にはA4サイズの紙片が置かれていた。なになに……ロースだのカルビだのが書いてある下に、「感想欄」なるスペースが設けられている。

越後屋「実はこの越後屋、このたび本格的に焼き肉レストランの展開を考えておりまして」

おおっ、と店内に歓声があがる。

悠「……」

越後屋「今日のこの催しは、肉の仕入れ先を決めるにあたり、サンプルの試食会も兼ねておりました」

ああ、なるほど。それであんなに気前よく、高級肉を大放出していたわけだ。

悠「……」

越後屋「……というわけで皆さまには、今日食べたお肉の感想を細かぁくレポートにして提出してもらうでー」

吉音「えー、なにそれー」

朱金「そんなしちめんどくさいこと、いちいちやってられっか」

越後屋「もし今日中にレポートが提出されなかった場合、今回食べた分の請求書を送らせてもらうからなー」

朱金「なんだそりゃあ!?」

光姫「まあまあ……これだけごちそうになったんじやし、その程度の手間は惜しむべきでは無かろ」

吉音「うう……でもどのお肉がどの部分なのか、あたし全然わかんないよう……」

真留「えーと……歯ごたえがあっておいしかった……」

鼎「ほっぺが落ちそうなくらい、おいしかったわぁ」

詠美「内臓肉の臭みがないことに驚いた……」

十兵衛「歯ごたえが絶妙だった……と」

吉音「あうあうあう……キロ5万円分おいしかった」

越後屋「おお……みんな、なかなか個性的なレポートやなあ。読むのが楽しみやわぁ」

皆が思い思いのレポートを書いているのを見ながら、おれは全感想欄を同じ言葉で埋めていた。

おれも食べたかったです……と。
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