ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー新宿:茶屋小鳥遊堂ー

寅「うぜぇ」

悠「エシディしるのは不人気だな。頭を冷やすのにいいのに」

寅「ただの情緒不安定にしか見えねーよ」

朱金「どうでもいいが、肉はまだか肉は。今日はこのために朝飯抜いてきてんだからよ、いい加減腹減ったぜ」

真留「遠山さまっ、はしたないですよっ」

さすがにこの人数は店の中に入りきらず、通りに面した縁台にまではみ出ている。これからは匂いも漂わせるだろうけど……近隣の皆さまにはご容赦いただきたい。

越後屋「えー、本日は皆さまお忙しい中、ようおあつまりくださいまして。ほんに、おおきに」

悠「お……」

そのとき、越後屋が壇上に上がって挨拶を始める。

越後屋「これはまあ、ウチの皆様に対する日ごろの感謝の気持ちと思って戴けたら幸いで」

よっ越後屋、とどこからか喝采が飛ぶ。

寅「怪しいな……」

悠「お前、ハッキリ言うなよ……」

越後屋「まあ下心も無いとは言いまへんが、そこはそれ、横に置いといて」

どっと笑いが起こる。本気か冗談か判断つきかねるが、この話術の巧みさは、さすが商人といっておこう。

久秀「口の良さは天下一ねぇ」

悠「久秀も人のことはいえんだろ」

久秀「ふふっ」

悠「……」

越後屋「今日は思う存分、食べて、飲んでいってください。あ、けど未成年はアルコール禁止やでー」

会場がまた笑いに包まれる。

悠「おれはセーフだな」

寅「……」

悠「なんかいえよ!」

朱金「で、肝心の肉はどこにあるんだぁ!?」

そういったのは朱金である。

越後屋「肉なら、ここやで」

と、そこで越後屋が片手に肉の塊りを持って見せる。

悠「肉のかまたり」

久秀「……」

悠「だから、何かいって……無視はやめて……」

吉音「悠、さっきから大丈夫?」

吉音に心配される始末……。本当にHEEEEYYYYあアアァんまりだアアアア。

越後屋「キロ5万円の最高級マツザカ牛やで。どや、本気で美味そうやろ」

おおっ、と一部から歓声があがる。あれで何キロあるのだろう。ちょっと神々しい光まで見えてくる。けど……

悠「まさか、そのかまたりの…」

想「塊ですね。」

悠「その塊のまま焼くわけじゃないよな?」

それはそれで豪快な話しだが。

越後屋「まあそこはそれ、ちゃんと腕の立つ料理人もこっちで用意させてもろたさかいな。先生、出番やで」

「うむ」

先生、と呼ばれて出てきた料理人は。

悠「ん?」

はじめ「……」

用心棒の佐東さんじゃないか。

悠「彼女が腕の立つ料理人?」

越後屋「ああ、凄腕のな」

佐東さんは、皆の前でぺこりとお辞儀をする。それにしても、凄腕……ねえ。

吉音「ねえねえ、まさか目隠ししたままで料理するわけじゃないよね?」

越後屋「その「まさか」やで。ほな先生、始めましょか」

はじめ「うむ」

佐東さんはうなずくと、居合のポーズをとる。一体、なにをする気だ。
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