ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました【7】

ー大江戸学園:いちごやー

牡丹「おイヤですか?」

悠「そんなことは……」

牡丹「では、よろしいのですね?」

悠「……はい」

断る理由が思いつかず、勢いに押される形で頷いてしまった。そんなおれの様子を楽しげに笑いながら、牡丹ちゃんが軽く握った手を前に出してくる。

牡丹「ではいきますよ?せーのっ。じゃーんけん、ぽいっ♪」

悠「ほいっ」

おれが出したのはグー。牡丹ちゃんが出したのはパーだった。

牡丹「申し訳ありません。私が勝ってしまいましたね。では約束通り、ひと口いただけますか?」

悠「はあ。それはいいけど……」

食べさせてもらえないのは少し残念だが、約束は約束だし、文句はない。

だからケーキを牡丹ちゃんのまえに差し出そうとしたのだが……。

牡丹「あ~ん」

悠「あ?」

牡丹ちゃんが口を開きながら、おれに顔を近づけてきた。

牡丹「旦那さま、早く」

悠「早くって、まさか……おれが?」

牡丹「はい。旦那様の手で食べさせてください。」

悠「……」

牡丹ちゃんはそういって、まるでキスを催促するみたいに顎をあげて目を閉じた。そうして無防備な顔を向けられると、なんだかドキドキしてしまう。

牡丹「旦那さまぁ」

悠「…………」

甘ったるく囁いて、牡丹ちゃんが艶やかな唇を開いた。おれは指をつっこんでかき回したい興奮を覚えながら、フォークの先に乗せた生クリームを牡丹ちゃんの口へと運ぶ。

牡丹「ぁむっ♪」

生クリームが牡丹ちゃんの口の中に消えたのを確認して、おれはフォークを引いた。牡丹ちゃんは目を閉じたまま、味わうように口をもごもごと動かしている。

そして最後に、小さくのぞかせた舌で自分の唇をペロッと舐めて、ようやく目を閉じた。

悠「……」

牡丹「ありがとうございました」

悠「……いえ、どういたしまして」

なんだか照れくさくて、おれは牡丹さんから目を逸らす。ただ、ケーキを食べさせてあげただけなのに、こんなにドキドキするなんて……。

唯「悠さん、楽しそうだね?」

悠「はっ!?」

我に返ってそちらを見ると、唯ちゃんがにやにやしながらおれを見つめていた。

悠「違うんだ!別に、楽しいとかそういうことじゃなくて……今のは、なんていうか……」

唯「あはっ♪顔が真っ赤だよ?」

悠「くっ……」

牡丹ちゃんに気を取られて、唯ちゃんの存在をすっかり忘れてしまったのが失敗だった。

だが、仕方ないじゃないか。いきなり目のまえで、女の子に目を閉じられたりしたら、誰だって……。

唯「ねぇ。今みたいなことって、他の人もしてくれるの?」

牡丹「はい。ご注文いただいたお品や給仕する者によって、内容は変わりますけど」

唯「ふ~ん。なるほどね~」

唯ちゃんは頷きながら、ちらりととなりの席に目をやった。そこでは、さっきのおれと牡丹ちゃんみたいに、客と給仕の女の子がじゃんけんをしている。別の席では、なにやらカードを使った遊びをしているところもあった。勝負の結果や、女の子になにをしてもらっているのかまでは分からない。だが、どの席からも楽しそうな声が聞こえてきている。

中でも、ホールの一番奥にある席が、特に賑やかなのだが……。
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