ー茶屋ー小鳥遊堂はじめました

ー大江戸学園食堂ー

これまでで最大規模の放火騒ぎがあった翌日の昼。
さすがに学園は朝からその話題一色だったみたいだ。

当然、新の二年め組も例外ではない。事件の話が挨拶がわりになるくらいに持ちきりだったらしい。

ちなみにこんなとき、一番うるさいと思われる輝は授業なんか受けてられるかということで、取材のため自主休校らしい。
かくいうおれも自主休校で他校で昼飯を食いに来てるわけだが…。

あと、幸いにも新のクラスには被災者はいなかったようだ。強いていうなら、店に放火されかかったおれが一番被災者に近いかもしれない。

その話をすると由真のやつには「ねずみや」さえ無事なら別に構わないとからかわれた。冗談じゃない。

新に用心棒代を払うのもギリギリなのに。

「火事になったら大変だったよ」

さすがに由真よりは小鳥遊堂と関係が強い分、新は心配そうな顔をしてくれている。

「そうだよな。小鳥遊堂がなくなってたらこうして昼飯にありつけなくなってるしな」

「それももちろんあるけど、悠が無事で本当によかったと思ってるんだよ?」

「え、あー…ごめん」

「もういいよ。今日はなんだか食欲がない」

そういう新の前のトレイの上にはいつもと同じ新スペシャル

「いつもどおり食ってんじゃん」

「今日はおかわりしてないもん!」

「あー、そーですかー…」

会話の区切れにタイミングを合わせるようにチャイムが鳴った。

「また昼の放送か」

「あ、詠美ちゃんかな」

『ご機嫌よう。大江戸学園執行部、老中、酉居葉蔵だ。』

新の希望は叶わない。
スピーカーから流れて来たのは若い男の声だった。

「ぶー。詠美ちゃんじゃない」

老中の酉居はイヤミな嫌な奴だった。おれがここに出入りするのをやたら嫌っている。

「つまんないな。よし、おかわりもらってこよ」

「結局食うんじゃないかよ」

「えへへ♪」

新はどんぶりを持ってカウンターの方へ向かい、おれはひとりテーブルに残される。
テレビみたいにチャンネル変えられないかな。あの酉居とかいう男の顔を思い出すと飯が不味くなる。

『諸君らも知っての通り、昨晩、学園の各地で不逞の徒らによる放火事件が発生した。全校集会を間近に控えたこの時期にこのような事件が引き起こされたことは遺憾の極みである。我々大江戸学園執行部ではこれの事態を重く受け止め全校集会までの数日間治安強化法を執行部特別権限において発布することになった。具体的には主に火付盗賊改の権限強化を行う。また不審者を報告した者には褒賞金を出すことも検討しているので、諸君らの積極的な協力を期待する』

酉居は矢継ぎ早に政策を語り続けていた。
確かに直接的で短期的な効果は期待できる政策ばかりだとは思うがその手法にどこか違和感を感じてしまう。
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